研究・論文

search results

「熊坂 侑三」の検索結果

  • 熊坂 侑三

    日米の超短期経済予測

    研究プロジェクト

    研究プロジェクト » 2014年度 » アジア太平洋地域の経済成長と発展形態

    RESEARCH LEADER : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    リサーチリーダー

    主席研究員 熊坂侑三 ITeconomy CEO

     

    研究目的

    日米の超短期予測の精度をより高め、今四半期・次四半期の経済動向を他のエコノミストができない「数値」と「トレンド」で常に語ることを目的とする。

     

    研究内容

    日米の超短期予測を週次ベースで実施する。超短期予測による簡潔でタイムリーな分析レポートは原則毎週月曜日にHP上で発表される。毎月の最終週には、超短期予測から見た日米経済の月次動向が発表される。経済トピックスを踏まえ四半期経済の月次変化が解説される。H26年度は引き続きASEAN地域での超短期予測の可能性を検討し準備を行う。

     

    リサーチャー

    稲田義久 APIR研究統括

     

    期待される成果と社会還元のイメージ

    超短期予測の特徴は市場の見方よりもいち早く日米経済の景気転換点を把握できることにある。このため、経済政策者、エコノミスト、企業経営者の意思決定に役立つ情報を提供できる。

  • 稲田 義久

    日本及び関西経済の短期予測

    研究プロジェクト

    研究プロジェクト » 2014年度 » 関西の成長戦略

    RESEARCH LEADER : 
    稲田 義久

    ABSTRACT

    リサーチリーダー

    研究統括 稲田義久

     

    研究目的

    定点観測として関西経済の月次変化を捉え、アジアの中の関西を意識した経済分析月次レポートの作成。また四半期毎にマクロ計量モデルを用いた日本経済の景気の現状分析と予測を行う。それと連動し関西経済の短期見通しを改訂発表する。本プロジェクトは、日米超短期経済予測(リサーチリーダー、熊坂侑三)の成果を短期予測に反映させており、より精度の高い予測と分析を目指している。また関西独自景気指標開発をさらに継続して実施する。

    研究内容

    月次分析レポート(『関西経済月次分析』)はAPIR研究員を中心に作成されており、レポートの準備作成は同時にエコノミストを育てるトレーニングの場ともなっている。四半期レポート(『景気分析と予測』、『関西エコノミックインサイト』)では、日本経済・関西経済の四半期要約とともに、タイムリーなトピックスを取り上げ、経済政策や各種イベントの経済的影響を分析する。これらの成果はHP上でリアルタイムに発表され、またコメンタリー、トレンドウォッチ、関西経済白書などに反映される。また平成25年度より開始した関西2府4県のGDPの早期推計を日経DMとの共同プロジェクトで全国展開する。

    リサーチャー

    下田 充 日本アプライドリサーチ研究所 主任研究員

    入江啓彰 近畿大学短期大学部講師

    小川 亮 大阪市立大学経済学部 専任講師

    岡野光洋 APIR研究員

    林 万平 APIR研究員

    木下祐輔 APIR研究員

    期待される成果と社会還元のイメージ

    関西各府県の足下GDP速報値や、アベノミクスや東京オリンピック招致等影響分析のタイムリーな提供は、企業や自治体の関係者の経営・政策判断に資する。

  • 熊坂 侑三

    日米アセアン経済の超短期経済予測

    研究プロジェクト

    研究プロジェクト » 2012年度 » アジア太平洋地域軸

    RESEARCH LEADER : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    リサーチリーダー
    熊坂 侑三 ITeconomy CEO

    研究成果概要
    日米の超短期経済モデル(CQM*)が日米経済の現状の景気判断に適し、それが政策当局(特に金融政策者)、エコノミスト、投資家、経営者等の政策決定に役立つことから、日米―ASEAN CQM LINKの構想が生まれました。経済のグローバル化が急速に進展している今、ハイフリークエンシー(High Frequency)統計に基づく現状の景気判断が常に数値とトレンドで客観的になされることは地域経済の景気判断・安定化に役立ちます。最初のステップとして、マレーシア、フィリピン、タイにおけるCQM構築の可能性を調べました。これらの国々においてはCQM構築に十分なハイフリークエンシー統計の整備がなされています。CQMに望ましい季節調整統計によるCQMはタイ経済においてのみ可能でありますが、フィリピン、マレーシアに関しては季節調整がなされていないCQMの構築が可能です。*:「Current Quarter Model」 詳細はこちら

    研究目的
    グローバル経済下、ハイフリークエンシーデーターを活用した超短期経済モデル(CQM)による予測は、現 在の景気動向を常に数値と方向性で捉えることができることから、経済政策当局や企業経営者にとって重要な役割を果たす。ほぼ毎週、日米の景気動向を捉える と同時に、ASEAN諸国の超短期モデル構築にむけた調査を行う。

    研究内容
    ○日米経済動向について、重要な経済指標の発表による経済動向の変化を毎月3回の超短期レポートで報告
    ○詳細な日米経済の動向や連銀等の金融政策のあり方を月次レポートで報告
    ○年に2?3回セミナーを開催
    ○ASEAN諸国におけるCQM構築にむけ、タイ、フィリピン、マレーシアに関する調査、CQM構築の具体的構想を作成

    メンバー
    稲田義久 (甲南大学)
    <海外協力者(予定)>
    国家経済社会開発委員会(タイ)、
    国家経済開発庁(フィリピン)、
    Bank Negara Malaysia(マレーシア)等 6名程度

    期待される研究成果
    ・日米経済動向を数値と方向性で捉えることによる景気判断の明確化
    ・CQM予測から景気の転換点を市場のコンセンサスよりも約1カ月早く予測
    ・企業の投資戦略にも重要な情報を提供
    ・日米とASEAN諸国のCQMをリンクして予測することでアジア地域のリセッションの緩和・回避

     

  • 熊坂 侑三

    今月のエコノミスト・ビュー(2012年2月)

    インサイト

    インサイト » コメンタリー

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    <「学校年度」を考える?東大秋入学構想を受けて?>

    東大が学部の秋入学への全面移行を目指すという構想をまとめた。国際標準となっている秋入学に移行することで、国際化を進めることがねらいだ。海外から優 秀な学生を受け入れたり、逆に海外に送り出したり、また研究などで海外の大学との提携を促進するための有効な手立てとして秋入学は期待されている。
    私たちは、桜の季節の4月に学校年度と財政年度が同時にスタートすることをごく当然のこととして過ごしてきた。しかし、そのことは国際的に見るとほとんど 例外と言ってよいのだ。財政年度も図表1に見るように国によって違いがある。4月開始の財政年度をとる主要国は日本のほか、英国がそうであるが、学校年度 は9月始まりだ。そもそも学校年度が4月始まりという国はほとんど無く、国際的には学校年度と財政年度が一致していないのが普通なのである。


    学校年度や財政年度も重要な「制度」にほかならないが、「制度」が経済のパ フォーマンスに影響を与えることは経済学的にも疑いの余地はない。例えば、設備投資や人的投資(教育投資など)、技術進歩が中長期的な経済成長の要因であ るが、制度の違いがそれらの収益率に影響を与えるため、制度が経済成長を左右することになるのだ。
    人的投資による収益率が学校年度という制度によって大きく影響を受けている例を示そう。図表2は、1950年から2002年の間について、総出生数10 万人当たり何人のプロ野球選手数を輩出したかを生まれ月別に集計したものだ(このデータは、阪神球団の総合トレーニングコーチを務めたこともある中山悌一 氏の手による)。この図からは、4月生まれから生まれ月が遅くなるにつれてプロ野球選手になる確率が一貫して下がっていくことがわかる。4月生まれと3月 生まれとでは倍以上の開きがある。当然、4月生まれと3月生まれに能力の違いがあることなど考えられない。小学校低学年では1年間の体力や理解力の違いが 大きく、4月生まれの方がチャンスを貰いやすく、それが後々まで影響を及ぼすものと考えられる。すなわち、野球選手になるために同じ投資をしても本人の生 まれ月で収益率が変わってくることを意味しているのだ。わが国のプロ野球の場合、選手育成をほぼ全面的に学校や社会人のアマチュア野球に委ねているため に、学校年度の影響をとくに強く受けることになるのだろう。
    もちろん、仮に秋学期が学校年度のはじまりであったとしても、学校野球・社会人野球による育成システムがベースにある限り、10月生まれがピークになっ ただけだろう。しかし、ここで読み取りたいことは、制度というものは、われわれが考える以上に、人々の選択とその成果に様々な大きな影響を与えている可能 性があるということなのだ。現在の学校年度が国際化の抑制要因となってきたことを軽視することはできないと思うのだ。東大の秋入学の構想は、大学の国際化 にとどまらず、就職・雇用慣行、学校年度全体など日本の社会制度のあり方にも影響を及ぼす可能性があり、制度改革への問題提起としても大きな意味を持つと いえるだろう。

    [高林喜久生 マクロ経済分析プロジェクト主査 関西学院大学]

    日本
    <日本経済は踊り場を経て緩やかな回復軌道へ>

    2月13日発表のGDP1次速報値によれば、10-12月期の実質GDP成長率は前期比年率-2.3%となった。2期ぶりのマイナス成長となり、市場コン センサス(ESPフォーキャスト2月調査:同-0.4%)を大きく下回った。前年同期比で見ても-1.0%と4期連続のマイナスとなり、マイナス幅は前期 (-0.5%)より幾分拡大している。10-12月期のマイナス成長は、東日本大震災からの回復過程に海外経済減速(特にEUのマイナス成長)とタイ洪水 の影響が重なった結果と考えられる。したがって、マイナス成長は一時的であり今回は踊り場とみてよい。
    実際、10-12月期の実質GDPの中身を見ると、実質GDP成長率を最も押し下げたのは純輸出と民間在庫品増減であった。純輸出の寄与度は前期比年率 -2.6%ポイントと2期ぶりのマイナスとなった。一方、国内需要の寄与度は3期連続のプラスとなったが、前2期から大幅に低下し同+0.2%ポイントに とどまった。
    最終週(2月6日)における超短期モデル(支出サイド)の予測は同-2.7%と実績とほぼ同じ結果となった。超短期モデルの予測動態を振り返ると、 10-12月期の基礎月次データがまだ発表されない9月初旬の段階では、マーケットコンセンサスと同様+2%台半ばの成長率を予測していた。ところが、 10月のデータが発表され始める11月末には、-2%台の低成長へと予測はシフトした。以降、予測最終週まで-2%台の予測を継続しており、超短期モデル は2ヵ月程度早く正確に予測できた。一方、興味のあるのはマーケットコンセンサスの動向である。実績値が発表される直前には予測値は小幅のマイナスに転じ たものの、それ以前は一貫してプラス成長を予測していたことに注意。
    2月14日の(支出サイドモデルによる)超短期予測では、1-3月期の実質GDP成長率は、純輸出は引き続き縮小基調にあるが、内需の増加幅が拡大するた め前期比+0.3%、同年率+1.4%と予測する。この結果、2011年度実質GDP成長率は-0.5%となろう。一方、4-6月期の実質GDP成長率 は、純輸出の減少幅が縮小し内需の拡大ペースが維持されるため、前期比+0.6%、同年率+2.4%と予測する。復興需要も見込まれることから少なくとも 年前半は回復基調を維持しよう。
    1-3月期の国内需要を見れば、実質民間最終消費支出は前期比+0.3%増加する。実質民間住宅は同-4.0%減少するが、実質民間企業設備は 同+0.8%増加する。実質政府最終消費支出は同+0.4%、実質公的固定資本形成は同+11.6%となる。補正予算の効果が実感できる状況である。この ため、国内需要の実質GDP成長率(前期比+0.3%)に対する寄与度は+0.6%ポイントと前期から拡大する。
    一方、財貨・サービスの実質輸出は同+0.4%、実質輸入は同+2.4%増加する。このため、実質純輸出の実質GDP成長率に対する寄与度は-0.3%ポイントと前期からマイナス幅が縮小する。

    [[稲田義久 APIR研究統括・マクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国
    <雇用増、所得増、個人支出増の好循環の始まり?>

    2月4日の失業保険新規申請件数は358,000と大きく低下し、堅調な下降トレンドを形成している。今後の労働市場の改善が期待できる。また、グラフか らわかるように1-3月期の実質GDP成長率を所得サイドから見ると、1月の雇用統計更新の後3%程度にまで上昇している。夏の間、一時停滞した製造業、 非製造業も共にISM指数を見る限り、11月頃より再び上昇し始め、景気が再び回復してきたことを示している。このことは、ダラス連銀、カンザスシティー 連銀などの多くの地域連銀の製造業調査にも同じことが言える。支出サイドから予測した経済成長率が低いのは、11月、12月の輸入が非常に大きく伸び、そ れがARIMA予測に影響し1月-3月の輸入が過大に予測されていることが理由として考えられる。GDP以外の実質アグリゲート指標(総需要、国内需要、 最終需要)で見ると、1-3月期のそれらの実質成長率は2%?3%へと拡大してきている。今後、雇用の改善、所得増、個人消費支出増という好循環が生ま れ、持続的な経済成長の可能性がでてきた。
    しかし、連銀エコノミストの間では今もってハト派が優勢であり、ゼロ金利解除などは考えも及ばない。何しろ、政策金利の上昇を2014年以降と考えている 連銀エコノミストは17人中11人にも上る。今もって、シカゴ連銀のCharles Evans総裁などは更なる数量的緩和QE3を主張している。もちろん、タカ派のダラス連銀のRichard Fisher総裁は今の経済状態をみれば、ゼロ金利を維持する正当性は無いと主張している。同じタカ派のフィラデルフィア連銀のCharles Plosser総裁も今後3年近くも異常な低金利政策を維持すれば、連銀への信頼を失い混乱を招くと言い、いつものように金融政策はカレンダーによって決 まるのではなく、経済状況によって決まるものと主張しつづけている。ゼロ金利政策を長期間続けることにはインフレ期待の上昇ばかりか他のリスクもある。そ れは、革新をもたらすようなハイリスク-ハイリターンの投資がなされなくなる可能性である。これは、長期間低成長を続けると、高成長ができないと人々が思 うようになる”Moral Consequence of Economic Growth”に対して、”Moral Consequence of Monetary Policy”と呼べるのではないだろうか。すなわち、超低金利政策のもとでは、ローリスク-ローリターンの投資が多くなり、長期的な高い経済成長率を達 成することが難しくなる。

    [[熊坂侑三 ITエコノミー]]

  • 熊坂 侑三

    今月のエコノミスト・ビュー(2012年1月)

    インサイト

    インサイト » コメンタリー

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    <財政再建の議論では、成長を促進するためのエネルギー政策を最優先に>

    日本企業が海外競争相手に比して、経営環境で負っている大きなハンディキャップを「六重苦」と表現することが多い。(1)超円高、(2)高い法人税 率、(3)厳しい労働規制、(4)温暖化ガス排出抑制、(5)海外との経済連携の遅れ、(6)電力不足を指す。これらの多くは従来から指摘されているが、 (5)と(6)は東日本大震災以降に新たに加わったものであり、また(1)も新たなハンディに加えてもよい。
    今日、社会保障と税の一体改革が大きく議論されているが、財政再建だけの議論が中心で財政再建の中身と成長戦略がリンクしていないようである。特に、財政 再建は成長を促進するものでなくてはならない。全体として歳出削減自体は景気抑制的であるが、そのメニュー次第で成長促進的になり得ることを意識しなけれ ばならない。というのも、日本経済の現況は財政再建の実現するための許容度が大きく低下しているからである。その許容度を引き下げている要因の1つが、 「六重苦」のうちの電力不足であり、これが日本経済の大きな成長制約要因となっている。
    東日本大震災以降、日本経済は電力不足に直面してきた。これを回避するために節電に取り組み夏季には前年比で10%近くの電力需要削減を実現した。冬季に も引き続き節電が実施されている。一方、供給側ではこれまで電源構成(発電ベース)の3割近くを占める原子力発電が短期的にはほぼゼロになるという状況下 で火力発電が不足分を代替している。これは、日本経済に追加的な燃料コストが発生し、結果的には海外へ所得移転となる。つまり所得成長がこれまでより低下 し、担税能力が低下し、先行き財政再建をさらに困難にするのである。
    具体的に数字で見てみよう。2009年の原子力発電量は279,750百万kWhであるから、これを火力発電で全量代替すれば単純計算で年3.2兆円程度 の追加コストが発生する。平均代替コストはkWh当たり11.5円で計算している(2011年7月29日エネルギー・環境会議想定に基づく)。東日本大震 災以降(2011年4-11月累計)の貿易動向(通関ベース)を前年同期比で見ると、財輸出は1.7兆円減少し、財輸入は5.2兆円増加している。輸出減 には世界経済の低迷が大きく影響している。一方、輸入増のうち、鉱物性燃料輸入増は3.2兆円と輸入増の62%を説明しており、発電燃料代替によるコスト 増の影響が明瞭に見られる。
    世界経済の先行きを俯瞰すれば、足下米国経済は堅調であるが持続性に問題がある。EU経済はすでに不況下にあり2012年はマイナス成長が予想されてい る。したがって、日本にとってこの1-2年の輸出市場は成長抑制的である。一方、輸入はエネルギー政策に大きな変化がない限り、やはり成長抑制的である。 純輸出は当面日本経済にとって成長を引き下げる要因であることを強く意識しなければならない。現時点では2014年4月から消費税率8%への増税が政府の 議論では想定されているが、この増税議論にかける以上の労力を成長促進するための財政政策の議論に向けられなければならない。特に、先を見据えたエネル ギー政策が最優先順位である。
    以上の議論からはっきりするように、エネルギー政策の中心は(1)省エネルギーの促進(節電のみならず効率的な熱供給が重要)と(2)化石燃料起源のエネ ルギーから再生可能エネルギーへの転換とならざるを得ない。社会保障と税の一体改革による財政再建が実現されるには、経常収支が黒字であることが重要なポ イントとなるが、現状は厳しくその許容度が低下している。社会保障と税の一体改革による財政再建を進めるためには、成長戦略の議論と分離不可能であり、成長を促進するエネルギー政策とセットでなければならない。

    日本
    <10-12月期日本経済は米国とは対照的に低調なパフォーマンス>

    2012年新年を迎えたが、2011年10-12月期日本経済の超短期予測には前月と比較して大きな変化はない。また同期の米国経済の超短期予測(5%程度の高成長)とは対照的である。
    現時点では10-12月期GDPを説明する基礎データは公的固定資本形成や政府最終消費支出関連データを除き11月までがすでに発表されている。
    1月16日の(支出サイドモデルによる)予測では、10-12月期の実質GDP成長率は、内需は小幅拡大するが、純輸出は大幅縮小するため前期比 -0.5%、同年率-1.9%と予測する。日本経済は7-9月期の高成長(+5.6%)から一時的な踊り場へと局面を移すことになろう。一方、2012年 1-3月期の実質GDP成長率は、純輸出は横ばいに転じ内需の増加幅が拡大するため、前期比+0.6%、同年率+2.4%と予測する。この結果、2011 暦年の実質GDP成長率は-1.0%、2011年度は-0.7%となろう。12月予測と変化はない。
    10-12月期の国内需要を見れば、実質民間最終消費支出は前期比+0.2%へと減速する。実質民間最終消費支出をよく説明する消費総合指数を見れば、 11月は前月比-0.4%と2ヵ月ぶりのマイナスとなった。内訳を見れば、10月の耐久消費財(前月比+5.8%)、サービス支出(同+1.0%)はとも に好調であったが、11月は耐久消費財(同-4.0%)が大幅減少しサービス支出も横ばいとなったからである。この結果、消費総合指数の10-11月期平 均は7-9月期平均比+0.2%と減速したがマイナス成長とはならず意外と貢献している。実質民間住宅は同+2.7%増加するが、実質民間企業設備は同 -1.0%減少する。実質政府最終消費支出は同+0.5%、実質公的固定資本形成は同+0.7%となる。補正予算の効果がまだまだ実感できない状況であ る。このため、国内需要の実質GDP成長率(前期比-0.5%)に対する寄与度は+0.2%ポイントと小幅にとどまる。
    一方、財貨・サービスの実質輸出は同-5.3%減少し、実質輸入は同-1.4%減少する。このため、実質純輸出の実質GDP成長率に対する寄与度は-0.7%ポイントと景気を大きく押し下げる。
    米国経済の高成長持続可能性には問題があり、EU経済はすでに景気停滞に入っている現状では、日本経済にとって、当面は純輸出の低調が景気抑制要因となる。加えて補正予算の効果が意外と小さいとなれば、先行き日本経済のダウンサイドリスクはますます高まる。現時点では2011年度末にかけて一時的な踊り場と超短期予測は見ているが、ダウンサイドリスクが高まれば、日本経済は2012年前半に停滞局面に入る可能性に留意しておかなければならない。

    [[稲田義久 APIR研究統括・マクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国
    <いつまで続けられるかFRBのゼロ金利政策>

    1月13日予測では、米国経済(2011年10-12月期)は前週の予測(前期比年率5.1%)からは下方修正されたものの同3.9%(1月13日 予測)と堅調な拡大を続けている。下方修正には11月の貿易統計の影響が反映されている。GDP以外の実質アグリゲート指標をみても、米国経済の強い回復 が見て取れる。しかし、今もってQE3(第3次数量的金融緩和)の可能性を語るエコノミストもいる。FRBの中でさえ更なる金融緩和を支持するエコノミス トもいる。ニューヨーク連銀のWilliam Dudley総裁、ボストン連銀のEric Rosengren総裁、FRBエコノミストのElizabeth Dukuなどのハト派である。例えば、Dudleyは”frustratingly slow”な景気回復、”unacceptably high”失業率と言い、更なるモーゲッジ担保証券の購入を通して、住宅金利の引き下げを唱えている。一方、セントルイス連銀のJames Bullard総裁は景気回復はすでに力強く、これ以上国債を購入することによって長期金利を低下させ経済回復をサポートする必要はないと言う。
    5%にも達する経済回復の中で、何故更なる金融緩和策が必要なのであろうか?実際に住宅金利はすでに十分に低いし、これ以上引き下げてもそれによる住宅市 場の刺激には限界がある。むしろ、最近の新規・中古住宅販売件数を見る限り、住宅市場はまだ水準は低いが改善の方向に向かい始めた。金融当局にとって重要 なことは、できるだけ早く異常な低金利政策から正常な金利水準に戻ることである。これを行っていれば、今後欧州債務危機が悪化したとしても即座の対応が可 能になる。
    1月24日、25日とFOMCミーティングがある。1月27日には2011年10-12月期のGDPが発表される。このFOMCミーティング時には、 FRBエコノミストも同期の経済成長率が高くなることを認めざるをえないだろう。例えば、4%を超える経済成長率が可能になったにもかかわらず、FRBが 更なる金融緩和策の維持をできるだろうか? ハト派のエコノミストが多いFOMCにおいて、その可能性は高いといえる。しかし、現在のような強い経済拡大 が続く中で、FRBが異常なゼロ金利政策を何処まで続けられるのであろうか?連銀にとって重要なことは、今の力強い景気回復を認めそれが持続するようなコミュニケーションを市場と行うことが重要である。FRBが強引なゼロ金利政策に固執すれば、市場からの信頼を失うことになるだろう。

    [[熊坂侑三 ITエコノミー]]

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2010年12月)

    インサイト

    インサイト » コメンタリー

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    関西経済のGDP(域内総生産)の規模はオランダ一国並みのおよそ80兆円、日本の中では約17%経済である。2010年度の関西経済の実質成長率は+2.6%と前年度見込み-1.3%から3年ぶりのプラス成長と予測(最新予測についてはhttp://www.kiser.or.jp/ja/trend/forecast.htmlを 参照のこと)している。関西経済は、全国と同様、政策動向に大きく影響を受けた1年であったといえよう。住宅版エコポイントの効果は来年も期待できるが、 エコカー補助金は9月初旬に終わり、家電エコポイントも徐々に限定的となり2011年3月末には終了する。一方、家計消費を抑制するたばこ税増税が10月 から実施された。
    先行きについては、このような政策変更に伴う複数の駆け込み需要とその反動減などで家計消費が乱高下し、景気の基調が読みづらい状況である。足下減速しつ つある海外経済は、2011年央にかけて拡大経路に復する。そのため、関西経済はその恩恵を受け景気後退を回避することができ、二番底には陥らないであろ う。
    さて2011年の関西経済を一言でいえば、「アジアの中の関西」を実感する元年となるであろう。中小企業、学生・・・どんな関西人でもアジアを意識せざる をえない年となろう。本コラムで、何度も指摘しているように、IT化によるグローバライゼーションで“要素価格の均等化”が進行しつつある。例えば、簡単 なパンフレットやレストランのメニューを作る町の小さな印刷屋さえ、中国の印刷屋と競争をせざるを得なくなった。日本の印刷屋が中国の印刷屋と同じものを 作る限り、品物の価格は下がり、賃金も下がらざるをえない。これはデフレではなく、グローバライゼーションによるものである。その変化に適応した、ビジネ スモデルの導入とそれを促す経済政策が必要なのである。就活する学生もアジアの学生との競争を意識し、語学の重要性を感じ始めている。
    特に関西はアジア向けの輸出の比重が全国の平均よりも抜きん出て高い。しかし、アジア向けの製品は、韓国や中国に競争されやすいものを輸出しており、これ からは、付加価値を強く意識したものを作っていかないと関西経済の未来はない。逆に成長著しいアジアマネーを取りこむことが重要である。関西の成長戦略の 一つとしてツーリズムが有望な候補の一つであることは周知の事柄であり、そのためには関西は魅力的でなくてはならない。
    ミクロ的な例で言うと、大阪ではオフィスビルの大量供給が2010年にピークを迎える(図参照)。一方で、リーマンショックと重なったため空室率は大幅に 上昇している。2013年にはさらなる大量供給が控えているが、これを関西活性化につなげるためには、関西を魅せる戦略が決定的に重要となる。来年5月に JR大阪駅に高層のノースゲートビルが完成し、また北ヤードでは先行開発区が2013年春完成を目指して動き出す。この北ヤードの2期開発区域について は、橋下大阪府知事が森を、平松大阪市長はサッカー場を提言されているが、関西最大のターミナルに他地域から、海外ではアジア人がリピーターとしてきてく れるためには何が必要かという視点が決定的に重要と思われる。その意味で、2011年は関西人がアジアを強烈に意識する元年といえるのではないか。

    日本
    <マイナス成長に突入した10-12月期日本経済>

    12月9日発表の7-9月期GDP2次速報値によれば、実質GDP成長率は前期比+1.1%、同年率+4.5%となった。1次速報値の同+3.9%からの 上方修正である。上方修正の主要因は民間企業設備と民間企業在庫品増加である。今回は、通常の1次速報値から2次速報値にかけての修正に加え、包括的な データ改訂が行われた。すなわち、2008年度のデータが確報値から確々報値に、2009年度のデータが速報値から確報値に改訂された。その結果、足下6 四半期が上方修正に、一方、リーマンショック後の2四半期(2008年10-12月期及び2009年1-3月期)が大幅に下方修正された。2008年度と 2009年度の実質GDP成長率は1次速報値の-3.8%と-1.8%から-4.1%と-2.4%にいずれも下方修正された。包括的なデータ改訂からわ かったことは、リーマンショックはいかに日本経済に大きな影響を与えたかである。
    さて景気の足下はどうであろうか?今週の予測では、一部の11月のデータとほとんどの10月のデータが、また7-9月期の2次速報値が更新されている。支 出サイドモデルによれば、10-12月期の実質GDP成長率を前期比年率-1.1%、一方、2011年1-3月期の実質GDP成長率を同+4.0%と予測 している。10-12月期は11月の見通しから下方修正され、成長率はマイナスが避けられないようである。結果、2010年度の成長率は+3.6%となろ う。
    10-12月期実質GDP成長率への寄与をみると、内需は成長を引き下げるが外需は小幅成長に寄与する。内需のうち、実質民間最終消費支出は政策の反動減 の影響で前期比-0.2%となる。実質民間住宅は同+2.7%増加するが、民間企業設備は-0.6%減少する。実質政府最終消費支出は同+0.7%増加す るが、実質公的資本形成は同-1.9%減少する。外需を見れば、実質財貨・サービスの輸出は同-4.2%低下し、実質輸入は同-6.6%減少する。いずれ も減少するが純輸出は小幅の成長貢献となる。
    主成分分析モデルも、10-12月期の実質GDP成長率は同-3.0%、1-3月期は同+1.2%と予測している。この結果、両モデルの平均成長率予測は10-12月期が同-2.0%、1-3月期が同+2.6%となる。10-12月期の落ち込みは一時的となろう。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国

    11月後半から12月後半にかけて発表された経済指標から市場は景気回復に対してかなり楽観的になった。しかし、11月の雇用増(純)が市場の予想を大き く下回ったことから、せっかく高まってきた景気回復への楽観的な見方に水をさす形となった。特に、失業率が職を求める人々が増えたにせよ、10月の 9.6%から9.8%へと上昇したのがいけない。連銀は追加的数量緩和政策により積極的になり、バーナンキ連銀議長は米国債買い入れ額が6,000億ドル を超える可能性も示唆している。
    連銀が異常な金融緩和を続けるロジックは次の通りである。(1)失望的に低い物価上昇率、デフレ懸念、(2)今の失業増加は構造的なものではなく、循環的 なもの(11月2?3日FOMCの議事録参照)。それゆえ、一層の金融緩和で景気を良くして、連銀に課せられた2つの目標(物価の安定と完全雇用)を達成 しようとするものである。残念ながら、連銀のロジックには(日銀と同じような)誤りがあるように思われる。PCE価格デフレーター、コアPCEデフレー ターでみた現在の物価上昇率は0%?1.5%と失望的に低い水準ではない。むしろ、IT革新による生産性の向上、サーチコストの劇的な低下、グローバル化 による低価格製品の供給を考慮すれば、当然の低物価上昇率であり、デフレ・インフレ懸念のないパーフェクトな物価状況である。一方、失業の増加には構造的 な面が強い。すなわち、企業は一旦解雇した労働者を景気が回復してきても再び雇用せずに、IT化をすすめることでかなり対処することができるからである。 すなわち、連銀はプラス効果の少なく、将来のマイナス効果の大きい異常な低金利政策を維持している。おそらく、カンザス・シティー連銀のトーマス・ホーニ ング総裁の考え方が正しいと思われる。
    グラフに見るように、今期の経済成長率は11月に入りかなり急速に改善をし始め、今では3%?4%にまで達しており、米経済は堅調な景気回復状況にある。このような状況で異常な低金利政策を続けても、急速に失業率が低下するわけではない。
    すなわち、今金融政策のできることは限られている。後は、財政政策などに任せ、今の安定した物価に重点をおいた金融政策を行うことが重要である。短期的に は、富裕層も含めたブッシュ減税政策の延長をできるだけ早く民主党が受け入れることである。長期的には、経済のITによるグローバル化に対処できるイノ ベーションを促進する経済政策が求められる。経済はITにより大きく変わっている。それに対応するスペシフィックなミクロ経済政策が求められているのであ り、異常な低金利政策をいつまでも続けても、将来への悪影響をもたらすだけである。

    [[熊坂侑三 ITエコノミー]]

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2010年11月)

    インサイト

    インサイト » コメンタリー

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    今月は補正予算の経済的効果について検討する。ここでいう補正予算とは、9月10日に「新成長戦略実現に向けた3段構えの経済対策」が閣議決定されたが、 うちステップ1として9月24日に決定された経済危機対応・地域活性化予備費を活用した緊急経済対策、及びステップ2として10月8日に決定された「円 高・デフレ対応のための緊急総合経済対策」に係る平成22年度補正予算を対象としている。
    仕分けの過程で明らかになったように今回の内容は、22年度本予算で削減された内容の復活という印象を払拭できない。しかし、これまで成長を支えてきた輸 出の鈍化等から、先行きの不透明感が高まっている。円高が進行しており、輸出の更なる鈍化や製造業の海外シフトのリスクが高まっており、緊急経済対策の ニーズは高まっている。経済対策の必要性は高く、かつ、速やかな実施が重要といえよう。
    問題は実施規模とタイミングである。緊急総合経済対策、ステップ1が9,180億円、ステップ2が5兆901億円で合計6兆82億円である。項目のうち、 内容のわからないその他や金融支援を除いて実施規模を求め、またステップ1が2010年度内に、ステップ2が2011年度にわたって支出されるパターンを 想定すると、2010年度で2兆3,185億円、2011年度で2兆6,679億円となる。これらの補正予算額は、政府最終消費支出、公的固定資本形成、 家計への移転、企業への移転、民間最終消費支出、民間住宅の形態で追加需要となる。
    政策効果として、政府は今回の対策により、実質GDPを0.6%押し上げるとしている。われわれは「第85回景気分析と予測」においてこれを検証した (11月25日発表)。7-9月期のGDP1次速報値を更新して、新たに2010-2012年度の日本経済の成長パターンを予測した。この予測値には今回 の補正予算は含まれていない。次に補正予算を反映させたシミュレーションを行い、これと比較したものが補正予算の効果となる。下図が示すように、2010 年度末にかけてステップ1の効果が表れてくるが、効果の発動期間は2期間であるため2010年度平均では0.38%の押し上げ効果にとどまる。一旦、 2011年4-6月期に押し上げ効果は低下するが、これは家電エコポイント制度が3月に終了することから、4-6月期に民間消費の反動減が生じるためであ る。2011年度平均では乗数効果も表れ0.53%の実質GDP押し上げ効果がでてくるが、2012年度には効果が剥落し0.06%と押し上げ効果はほぼ ゼロとなる。

    日本
    <10-12月期はマイナス成長の可能性が高まるが、一時的な停滞にとどまろう>

    11月15日発表のGDP1次速報値によれば、7-9月期の実質GDP成長率はエコカー補助金等の駆け込み需要の影響で前期比+0.9%、同年 率+3.9%となった。4期連続のプラス成長となり、4-6月期の改定成長率同+1.8%から加速した。なお前年同期比では+4.4%と3四半期連続のプ ラスとなった。
    7-9月期の実績は、市場コンセンサス(2.31%:11月ESPフォーキャスト調査)を大きく上回ったが、超短期予測の平均値に近い結果となった。超短 期モデルの最終週の予測では、支出サイドモデルが同+2.0%、主成分分析モデルが同+4.4%、両者平均で+3.2%の予測となった。注目すべきは、超 短期予測は7-9月期の最初の月のデータが利用可能となる8月の終わりにはすでに3%台を予測していたことである。
    7-9月期の実質GDP成長率(前期比年率ベース)への寄与度を見ると、国内需要は+3.7%ポイントとなり、成長率に4期連続のプラス寄与となった。一 方、純輸出は+0.1%ポイントの寄与にとどまった。純輸出は6期連続で成長率を引き上げたが、その寄与度はほぼゼロとなった。データは、アジア向けの輸 出が減速したことと、1年を上回る補助金政策の終焉による駆け込み需要の影響が大きく出たことを示している。10-12月期には逆に反動減が出るため、マ イナス成長に陥る可能性が高い。
    今週の超短期予測では、実績としてごく一部の10月データしか予測に反映されていない。にもかかわらず、10-12月期の実質GDP成長率を、内需は小幅 拡大するが純輸出が縮小するため前期比+0.1%、同年率+0.4%と予測する。一方、1-3月期の実質GDP成長率を、内需は引き続き拡大するが、純輸 出は横ばいとなるため、前期比+0.5%、同年率+2.1%と予測している。
    10-12月期の国内需要を見れば、実質民間最終消費支出は前期比+0.2%となる。現時点では小幅のプラスを予測している。実質民間住宅は同+4.4% 増加し、実質民間企業設備は同+0.6%増加する。実質政府最終消費支出は同+0.6%、実質公的固定資本形成は同-2.5%となる。
    財貨・サービスの実質輸出は同-1.8%、実質輸入は同-2.0%それぞれ減少する。このため、実質純輸出の実質GDP成長率に対する貢献度はマイナスに転じる。
    一方、主成分分析モデルは、10-12月期の実質GDP成長率を前期比年率+0.1%と予測している。また1-3月期を同+1.6%とみている。
    この結果、支出サイド・主成分分析モデルの実質GDP平均成長率(前期比年率)は、10-12月期が+0.2%、1-3月期が+1.9%となる。
    10月のデータがほとんど利用可能ではない現時点においてでも、超短期予測は10-12月期の日本経済をゼロ成長と予測しており、悲観的なデータが更新されるにつれてマイナス成長に陥る可能性が高まっているが、一時的な停滞にとどまるとみている。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国

    7-9月期の実質GDP(速報値)の伸び率(前期比年率)は+2%と超短期予測と同じであった。またコア個人消費支出価格デフレーターでみたインフレ率 も+0.8%と超短期予測とほとんど同じであった。また7-9月期データを更新した、10-12月期の実質GDP成長率については、今週の予測では 同+3.4%と高い成長率を見込んでいる。
    しかし、それに基づいての政策となると連銀と超短期モデルの考え方は全く異なる。連銀は彼らの“完全雇用、物価安定の2つの目標”から”2%経済成長、 1%インフレを失望的に低い”と判断し、11月3日のFOMCミーティングにおいて2011年中頃までに6,000億ドルの長期国債を購入することを発表 した。
    超短期モデル予測からすれば、1%のインフレ率は理想的である。米経済はデフレ状況でもなく、今のコモディティー価格の上昇、異常なドル安を考えれば、デ フレを懸念する状況ではなくむしろ、将来のインフレを懸念すべきである。2%という経済成長は確かに、雇用を急速に増やす成長率ではない。しかし、異常な 低金利を長期間続け、連銀のバランスシートを異常に膨らませてきた中で、効果の不確実な追加的数量的金融緩和政策を更に導入しなければならないほど低い経 済成長率でもない。連銀がデフレに敏感なのは、日本の1991年の土地バブル崩壊後の失われた20年がデフレによると考えているからである。
    確かに、バブル崩壊後にデフレの経済への悪影響はあったであろう。それが、20年も続くわけではない。更に、異常なゼロ金利で日本経済が立ち直らないのは 別の根本的な問題があるからである。すなわち、日本経済の長期停滞は1990年代から急速に進んでいるIT化によるグローバライゼーションに日本の企業が 対応できなくなっているからである。例えば、簡単なパンフレットやレストランのメニューを作る町の小さな印刷屋さえ、中国の印刷屋と競争をせざるを得なく なった。日本の印刷屋が中国の印刷屋と同じものを作る限り、品物の価格は下がり、賃金も下がらざるをえない。これはデフレではなく、グローバライゼーショ ンによる“要素価格の均等化”である。それ故、金融緩和政策を幾ら続けても、日本経済はよくならない。IT化によるグローバライゼーションに適応した、ビ ジネスモデルの導入とそれを促す経済政策が必要なのである。発展途上国からの安いあらゆる品物が先進国に即座に入るようになっている。この事実を見逃し、 いつまでも異常な低金利政策を続ければ、経済に副作用がでてくる。米国はすでに、異常なドル安により輸入業者や消費者の購買力が大きく減少している。金融 政策当局はいち早く“デフレ病”から抜け出すべきである。今の経済回復に対して、金融政策のできることには限りがある。

    [[熊坂侑三 ITエコノミー]]

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2010年10月)

    インサイト

    インサイト » コメンタリー

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    日銀は10月5日に開いた政策決定会議で4年ぶりのゼロ金利政策を再開した。日銀自身が「包括的金融政策」としているように、以下の3つの画期的な政策が含まれている。
    (1)ゼロ金利政策0?0.1%
    (2)消費者物価上昇率でみて1%になるまで金融緩和:「時間軸」効果
    (3)5兆円規模の資産買取り(国債以外にETF(上場投資信託)REIT(不動産投資信託)を含む)
    さて、今月の米国経済見通しでは、「今の物価下落には、IT化によるグローバライゼーションの影響が大きい。今は、技術・知識が即座に世界中に伝 播する。そのため、日米が発展途上国と同じものを作っていれば、物価は安くなるのは当然であり、グローバライゼーションの結果要素価格は均等化することか ら日米の賃金も低下せざるをえない。すなわち、日米の消費者は価格低下のベネフィットを受ける一方、企業は新しいビジネスモデルを導入しなければ、賃金の 低下は防げない。」と述べられている。この点は本コラムでもつとに強調してきたことである。
    デフレは確かに金融的現象であるが、金融政策ですべてを説明できるわけではない。例えば、1990年代半ば以降の労働生産性、消費者物価指数、賃金の変 化の国際比較をすると、日米欧はともに生産性を伸ばしているが、日本のみが賃金・物価の下方スパイラルに陥っている。これはこれまで日本がとってきた成長 戦略と大いに関係がある。日本は輸出拡大により2002年からの景気回復を実現してきたが、輸出品の多くは発展途上国との競合品であり、これらを伸ばすこ とにより結果的に賃金デフレを加速したのである。日本は要するに付加価値の高い製品をつくり出せていない。例えば、欧州がブランドやデザインを重視し価格 を維持しながら良質の製品を長く売っていくパターンと日本の製品を作り出すパターンを比較すればよく理解できる。
    その意味で日銀が消費者物価指上昇率でみて1%以上を実現できるまでゼロ金利政策を持続するという宣言は金融政策の効果を過信しすぎではないだろうか? むしろ日銀がこれまで恐れてきたゼロ金利政策長期維持の弊害を大きくする可能性もある。重要なのは金融政策と財政政策(補正予算)のセットの効果であっ て、日本がどのような成長戦略をとるかが極めて重要であることを理解しなければならない。すなわち高付加価値を生み出す産業を展望することが重要であり、 環境関連産業や観光に注目するのは正解である。(稲田義久)

    日本
    <7-9月期は2%程度の成長は可能となるが、円高の進行は下振れリスクを高める>

    10月18日の超短期予測では、GDP項目を説明する大部分の8月データと一部の9月データが更新されている。その結果、7-9月期の実質GDP成長率 は前期比+0.4%、同年率+1.7%となり、前期(同+1.5%)を上回る成長率予測となっている。また10-12月期は同年率+1.8%と引き続き緩 やかな回復となっている。この結果、2010暦年の実質成長率は3%程度が見込まれている。ちなみに、マーケットコンセンサス(ESPフォーキャスト10 月調査)を見ると、7-9月期は同年率+2.11%と超短期予測と大きな差異はないが、10-12月期は同-0.21%とマイナス成長が予測されており、 現時点でマーケットは日本経済が年度後半には減速すると想定している。
    さて7-9月期の成長率(前期比+0.4%)の中身をみると、実質国内需要は+0.6%ポイント、実質純輸出は-0.1%ポイントとなっている。これまで景気回復のエンジンであった純輸出は2009年4-6月期以来6期ぶりのマイナスが予測されている。
    7-9月期の国内需要の中身を見れば、実質民間最終消費支出は前期比+0.6%の増加が見込まれている。実質民間住宅は同-1.1%、実質民間企業設備 は同-1.6%と投資関係は減少が見込まれている。民間需要は民間最終消費支出を除き低調となっている。民間最終消費支出は政策の前倒し効果の影響で好調 であるが不安材料もある。9月の乗用車新車販売台数(季節調整値:含む軽)は同月初旬にエコカー補助金が予算額を超過したため前月比-29.4%減となっ た。4ヵ月ぶりのマイナスである。これが9月の消費総合指数に反映された場合、7-9月期の民間最終消費支出の予測値が下振れする可能性がある。公的需要 では、実質政府最終消費支出は前期比+0.6%、実質公的固定資本形成は同+0.5%となる。
    問題は外需の縮小である。7-9月期の財貨・サービスの実質輸出は前期比+0.2%とほぼゼロ成長を予測しており、実質輸入は同+1.6%と輸出の伸び を上回ろう。8月の鉱工業生産指数が3ヵ月連続で前月比マイナスとなっており、輸出の弱さと整合的である。海外市場、特に、新興市場は伸びの減速が予想さ れており、しばらく純輸出は景気押し上げのエンジンとはなりにくい。
    グラフに見るように、日本経済の成長率予測(支出サイドモデル)は一時9月の後半に減速傾向を示したが、10月に入り再び2%台をうかがう傾向となって いる。この程度の成長率が年度後半も持続するかは純輸出の動向に依存する。80円台を突破する可能性のある円高は日本経済の下振れリスクを高めよう。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国

    バーナンキFRB議長は10月15日のボストン連銀において”低インフレ環境における金融政策と手段”という講演を行った。それによると、2010年6 月のFOMCにおけるFOMCメンバーや地域連銀総裁たちによる長期目標の経済成長率、失業率、インフレ率を基準にして、バーナンキ議長は米国経済の現状 を判断し、”景気回復のペースは連銀が想定している3%程度(前年同期比)より遅く”、”現在のインフレ率1%は連銀の目標値(1.7%?2.0%)に比 べかなり低い(too low)”とコメントをした。その結果、市場は11月初めのFOMCにおいて、FRBが長期国債の購入という更なる金融緩和を行う と期待し始めた。

    グラフに見るように、米国の景気回復は8月になると急速にペースを落とし、ダブルディップリセッション(二番 底)懸念が生じたのも理解できる。しかし、超短期予測では9月の半ば以降景気は徐々に持ち直していることが分かる。おそらく、7-9月期の経済成長率は 2%前後と思われる。これは、対前年同期比でみれば3%程度の成長率となり、FRBの目標値とあまり変わらない。問題は物価への見方である。バーナンキ議 長は現状のインフレ率を1%と見なし、それをFRBの目標値(1.7%?2.0%)に対して”too low”と表現していることである。日銀と同じよう にFRBも”デフレ恐怖症”に陥っている。日銀が物価上昇率を1%になるまで金融緩和を続けると同じように、連銀も物価上昇率が2%になるまで金融緩和を 続けるように思われる。日米の物価上昇率がそれぞれ1%、2%になれば、政策当局の思うように日米の経済回復がもたらされるであろうか?”需給ギャップ” からのデフレ、金融緩和による需要拡大、デフレの解消、景気拡大というようなシナリオを考えているならば、日本経済はとっくに立ち直っているはずである。
    今の物価下落には、IT化によるグローバライゼーションの影響が大きい。今は、技術・知識が即座に世界中に伝播する。そのため、日米が発展途上国と同じ ものを作っていれば、物価は安くなるのは当然であり、グローバライゼーションの結果要素価格は均等化することから日米の賃金も低下せざるをえない。すなわ ち、日米の消費者は価格低下のベネフィットを受ける一方、企業は新しいビジネスモデルを導入しなければ、賃金の低下は防げない。FRBにとっての今一番の 問題は高い失業率であるが、この急速な解決には最低賃金を引き下げることが望ましい。今のデフレ(?)に対して、金融政策ができることは限られている。

    [[熊坂侑三 ITエコノミー]]

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2010年3月)

    インサイト

    インサイト » コメンタリー

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    関西経済にとって益々アジア経済、特に中国経済の重要性が高まりつつある。リーマンショック以降、2四半期連続の2桁マイナス成長の後、日本経済は外需 (海外市場)の回復に支えられて緩やかな回復局面にある。輸出市場として、新興国市場、特に中国を中心とするアジア経済の役割は非常に大きい。当研究所が 四半期ごとに発表する「関西エコノミックインサイト」において、関西予測モデルに基づいて関西地域の総生産(GRP)やその構成項目の短期予測を公表して いる。同時期に公表される日本経済の予測と比較して、民間企業設備や輸出が全国に比して強く出るというのが最近の特徴であった。今月のトピックスでは、関 西予測モデルの輸出関数に注目して、関西の輸出構造の特徴を見てみよう。
    まず地域別の輸出のシェアを全国と関西とで比較しよう。2008年度の通関輸出をみると、全国ベースで、アジア、中国、米国、その他地域のシェアは、そ れぞれ50.0%、16.5%、17.0%、33.0%となっている。関西ベースでは、それぞれ60.6%、20.5%、12.6%、26.8%となって いる。関西では輸出市場としてアジアのウェイトが全国に比して10%ポイント程度大きいのである。2009年度ではさらに拡大していることが予想される。 また中国市場のウェイトは全国に比して4%ポイント大きくなっている。
    関西予測モデルの輸出関数(GRPベース)では、所得変数としては中国、米国、EUの実質GDPの加重値を採用してきたが、輸出関数は地域別に分割して いなかった。今回、アジア、中国の重要性を考慮して、輸出関数を地域別に推計した。推計期間は1980-2006年度である。輸出関数は、通常、所得弾性 値と価格弾性値によって特徴づけられる。所得変数は輸出相手国の実質GDP、価格変数は世界輸出価格と日本の輸出価格の相対比である。なお、対アジア輸出 関数(中国以外)の所得変数として米国の実質GDPを採用しているのは、アジアで部品を組み立て、最終財を米国に輸出するという経路を考慮しているためで ある。また、その他地域では、所得変数として米国とEUの実質GDP加重値を採用している。
    下表が推計結果の要約である。これまで使用してきた関西の輸出関数(対世界)では、所得弾力性が1.196、価格弾力性が-0.298となっている。輸 出関数を中国、中国以外のアジア、その他地域(アジア以外)に分割すると、所得弾性値は、1.964、1.101、0.380とそれぞれの国や地域の成長 率の高さに対応した値となっている。また、価格弾性値も中国(-0.783)と中国以外のアジア(-0.869)ではよく似た値をとるが、その他地域では 低い弾性値(-0.190)となる。このように、輸出関数を関西にとって重要な地域に分割することにより、中国財政政策の関西経済に与える影響といった、 より現実に即したシミュレーションが可能となる。(稲田義久)

    日本
    <1-3月期の予測は対照的:超短期vs.コンセンサス予測>

    3月15日の予測では、3月の第2週までの月次データと2009年10-12月期GDP統計(2次速報値)を更新している。この結果、2010年1-3 月期の実質GDP成長率を支出サイドモデルは前期比+1.2%、同年率+5.0%と予測している。内需と純輸出がともに拡大するバランスのとれた成長と なっている。また4-6月期を同年率+2.9%と見ている。
    3月11日に発表されたGDP2次速報値によれば、10-12月期の実質GDP成長率は同年率+3.8%となり、1次速報値の+4.6%から0.8%ポ イント下方修正された。下方修正の主要因は民間在庫品増加の下方修正である。1次速報値では民間在庫品増加の実質GDP成長率に対する寄与度(年率) は+0.3%ポイントであったが、2次速報値では-0.6%ポイントへと下方に修正された。すなわち、民間在庫品増加の変化(-0.9%ポイント)が実質 GDP成長率の下方修正を説明していることになる。たしかに成長率は下方修正されたものの、一段と在庫調整が進んだという意味では、先行き見通しにとって は明るい材料である。
    さて、問題の先行きの見通しである。2次速報値発表前の3月9日に発表されたマーケットコンセンサス(3月ESPフォーキャスト調査)によれば、1-3 月期の実質GDP成長率は前期比年率+1.17%となっており、超短期予測に比べ非常に悲観的な見方となっている。グラフからわかるように3月8日以降、 超短期予測は+2%から+4%?+5%にシフトしてきている。
    上方シフトの主要因は、実質民間最終消費支出の予測が上方修正されたことによる。実質民間最終消費支出をよく説明する消費総合指数は、1月に前月比 1.0%増加している。一方、消費総合指数よりカバレッジの狭い全世帯実質消費支出は同-1.3%減少している。反対の結果となっている。マーケットコン センサスは全世帯実質消費支出の結果に影響されているようである。カバレッジの広いデータでみる限り、依然として実質民間消費は政策効果に支えられて堅調 なようである。2-3月の動向次第であるが、現時点では、日本経済に対して悲

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国

    3月12日の予測では、3月の第2週に発表された2月の小売業、1月の貿易収支、企業在庫などを更新している。超短期予測モデルは2010年1-3月期の米国実質GDP成長率を前期比年率+1.7%、4-6月期を同+1.6%と予測している。
    米景気は緩やかに回復しているが、その成長率はせいぜい2%程度である。1-3月期の景気回復をもたらす主な要素は個人消費支出である。賃金・俸給が伸 び始めたものの2%程度(同)であり、一方、実質個人消費支出の伸び率は3%程度(同)が予想されている。このように、給与の伸びを上回って、個人消費支 出が伸びる背景には家計の純資産の回復がある。
    家計の純資産は今回のリセッション前のピークには65.9兆ドルにまで拡大したが、2009年1-3月期には株価・住宅価格の下落から48.5兆ドルに まで減少した。しかし、昨年の3月以来の株式市場が上げ相場(bull market)に転じることにより、純資産は2009年4-6月期、7-9月期、10-12月期とそれぞれ前期比4.5%、5.5%、1.3%増加し、 10-12月期末には54.2兆ドルにまで回復した。ピーク時の純資産の水準に戻るまでまだ21%上昇しなければならないが、このような純資産の回復が個 人消費支出の3%程度の伸び率に寄与しているといえよう。
    個人消費支出が今後も堅調に伸びるかの一つの鍵は、株式市場の上げ相場がどのくらい長く続くかである。上げ相場の始まった2009年3月9日より1年間 で、ナスダック、SP500、ダウの株価指標はそれぞれ85%、69%、61%上昇した。過去15回の上げ相場の平均継続年数は約4年と長く、2年以下で 終わった時は3回しかない。幸いにも、株価の上昇にとって最もネックとなる”インフレの加速化”、”金利の上昇”は当分みられそうもない。このことから、 上げ相場の継続には幾分楽観的になれる。しかし、なんといっても、景気回復が本格的な軌道に乗るためには、”雇用増?所得増”の好循環が始まることであ る。すなわち、米国経済は未だ自律的な景気回復には至っていない。

    [[熊坂侑三 ITエコノミー]]

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2010年2月)

    インサイト

    インサイト » コメンタリー

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    当研究所では、先行き2年程度の経済予測を四半期ごとに発表しているが、同時に、このホームページで、毎月足元を含め2四半期先の予測(超短期モデルに よる月次予測)を発表している。四半期ごとの予測では超短期予測の情報を加味して、特に足元の予測精度の向上も図っている。各四半期の予測時点において は、足元に限られてはいるものの月次情報があり、それを有効に予測に利用しようというのが、超短期予測の発想である。
    超短期予測のメリットの一例を示そう。2月15日に10-12月期のGDP1次速報値が発表された。同期の実質GDP成長率は前期比+1.1%、同年 率+4.6%となり、3四半期連続のプラスとなった。1次速報値発表前の超短期予測(支出サイドモデル)は+4.8%と実績値にほぼ等しくなっている。ち なみに直前のコンセンサス予測(ESPフォーキャスト調査、2月9日発表)は+3.46%となっている。超短期予測は週次ベースでコンセンサス予測は月次 ベースで景気見通し(実質GDP成長率)を発表しているため、四半期毎ではなく、より頻繁に景気を見直すことができるといメリットがある。また超短期予測 は予測の精度が高く、速報値が発表される2-3ヵ月前でも十分精度の高い予測が提供できるという特徴がある。
    図は超短期モデルの予測の動態を示しており、予測パフォーマンスをコンセンサス予測と比較している。10-12月期の実質GDPの予測は速報値が発表さ れる6ヵ月前からスタートする。10-12月期の最初の月次データが予測に利用可能となる11月初旬に超短期モデル予測は3%台半ば(支出サイド、主成分 分析モデル平均)となり、12月には6-7%台まで上昇した。1月には予測は5%台半ばで推移し、最終週での支出サイドモデル予測は4.8%とほぼ公表値 に近い値となった。
    一方、コンセンサス予測は速報値発表直前において急速に実績値に収束するが、それまではほとんど変化しない。2009年4?6月期GDP速報値発表後の 8月から1月までの予測の幅は1.3%から1.8%の0.5%ポイントである。過去の予測データを比較しても同じ傾向が見られる。このことは、コンセンサ ス予測では、当該期のGDP推計の基礎データが揃う速報値発表直前とそれ以前とでは予測の手法が異なるということ示唆するものである。
    また興味深いのは、コンセンサス予測がマーケットのムードに左右され易いことだ。例えば、ドバイショック後の12月では、コンセンサス予測はマーケット の悲観的なムードに影響を受け下方修正(1.5%→1.3%)されたが、1月は株価が持ち直し円高が修正されるのを受けて上方修正(1.3%→1.8%) された。
    このように超短期予測もコンセンサス予測も1次速報値発表前には精度の高い予測を提供できることが分かったが、超短期予測は1次速報値発表の2-3ヵ月前でも十分精度の高い予測を提供できることが確認された。(稲田義久)

    日本
    <1-3月期はコンセンサスとは異なり高めの成長率を予測>

    2月15日に2009年10-12月期のGDP統計1次速報値が発表された。同期の実質GDP成長率は前期比+1.1%、同年率+4.6%となり、3四 半期連続のプラスとなった。前回1月の超短期モデルの予測値+4.6%であり実績値にピンポイントであった。また9日発表のESPフォーキャスト調査によ れば、同期の成長率コンセンサスは+3.46%であった(超短期予測とコンセンサス予測のパフォーマンスについては、今月のトピックスを参照)。
    10-12月期の実質GDP成長率(前期比年率)への寄与度を見ると、国内需要は+2.4%ポイントと7四半期ぶりに成長率を引き上げた。また純輸出 は+2.2%ポイントと3四半期連続のプラス寄与となった。内需が回復し始めたものの、依然として外需と政策に支えられた回復であり、景気回復の持続性に は不確実性が伴う。
    2月16日の予測では、10-12月期のGDP統計に加え、1月の国内企業物価指数、輸出入物価指数、投入産出物価指数、12月の鉱工業生産指数(確報値)、民間機械受注、情報サービス業売上高までが更新されている。
    超短期モデルは1-3月期の実質GDP成長率を前期比+0.7%、同年率+2.6%と予測している。また4-6月期の成長率を前期比+0.6%、同年率+2.5%とみている。この結果、2009年度の実質GDP成長率は-2.1%となろう。
    1-3月期の実質成長率(前期比年率)への寄与度をみれば、実質国内需要は+1.2%ポイント、実質純輸出は+1.4%ポイントと比較的バランスのとれた回復となっている。
    国内需要を見れば、実質民間最終消費支出は前期比+0.3%、実質民間住宅は同+0.9%とプラス成長となるが、実質民間企業設備は同-0.7%と小幅の マイナスを予測している。実質政府最終消費支出は同+0.7%、実質公的固定資本形成は同+0.6%となっている。一方、純輸出では、財貨・サービスの実 質輸出は同+3.8%、同実質輸入は同+1.2%と引き続き輸出の伸びが輸入を上回っている。
    一方、コンセンサス予測(ESPフォーキャスト調査)によれば、実質GDP成長率は1-3月期+0.80%、4-6月期+0.75%と低めの予測となっ ている。超短期予測が2%半ばと比較的高めの成長を予測しているのに比して、コンセンサスはゼロ成長に近く景気は踊り場局面に入るとみているようである。 超短期予測は、内需がマイナスに落ち込むことなく、また外需が引き続き拡大するとみている。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国

    1月29日に発表された2009年10-12月期の実質GDP成長率(速報値)は前期比年率+5.7%と最終の超短期予測の同+5%、市場のコンセンサ スの同+4.5%を上回った。しかし、持続的な景気回復となると、在庫増が成長率に+3.6%ポイントも寄与していることから慎重にならざるを得ない。1 月27日の連邦公開市場委員会(FOMCミーティング)においても、FRBは在庫による10-12月期の高い経済成長率を予想しており、政策金利は据え置 かれた。このFOMCミーティング後のステートメントでFRBは“economic activity has continued to strengthen… inflation is likely to be subdued for some time”との景気判断を行っている。
    図に示すとおり、確かに景気(実質経済成長率)は1%程度から2%程度にまで徐々に上向くと思われる。FRBは、景気は引き続き強くなっていると言う が、おそらくこの程度のことであろう。インフレに関して、超短期モデルはGDP価格デフレーター、個人消費支出(PCE)価格デフレーター、コアPCE価 格デフレーターのすべてが1-3月期、4-6月期において同+1.5%程度の伸び率を予測しており、FRBの言うようにしばらくの間インフレは抑制されて いるだろう。
    10-12月期のGDP統計と1月の雇用統計、12月の建設支出を更新した2月5日の超短期予測でのサプライズは2つある。良いニュースは製造業の賃 金・俸給の伸び率が2010年1-3月期に2007年10-12月期以来始めて前期比プラスになる可能性がでてきたことだ。サービス業の賃金・俸給も 同+5%程度とかなり高い伸び率が予測されている。このように、賃金・俸給が増加してくれば、今後の個人消費支出の増加にも期待が持てる。一方、悪い ニュースもある。それは2009年7-9月期、10-12月期とせっかくプラスの伸び率となった実質住宅投資が、2010年1-3月期に再びマイナス成長 になる可能性がでてきた。しかし、住宅投資のダブルディップを十分に補うほどに、米国の情報処理投資が堅調に伸び始めていることから、今の景気回復の腰が 折れるようなことはないだろう。

    [[熊坂侑三 ITエコノミー]]

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2010年1月)

    インサイト

    インサイト » コメンタリー

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    民主党政権が誕生して4ヵ月が経過した。この間、政権支持率は低下しているが、今後の政策、特に経済対策について依然として国民の期待は高い。今月のト ピックスでは、民主党政権の政策(マニフェスト)効果について、マクロ計量モデルを用いたシミュレーションの結果を紹介しよう。
    新政権誕生後の経済政策上の重要事項は、(1)2009年度1次補正予算の事業見直し、(2)同2次補正予算および(3)2010年度予算案や税制改正 大綱の公表である。2010年度予算では、個々の政策の規模について、当初のマニフェストベースよりも実現可能性の高い金額が明らかになってきた。現時点 の最新情報と7-9月期GDP2次速報値を織り込み、民主党政権の政策効果を2009-2011年度にわたってシミュレーションした。
    考慮した民主党政策(マニフェスト)のメニューは、(1)子ども手当・出産支援、(2)高校無償化、(3)暫定税率の廃止、(4)高速道路無料化、 (5)農業の戸別所得補償、(6)雇用対策、である。2010年度については予算案、11年度はマニフェストに記載されている金額を想定している。このほ か(7)家電エコポイント、(8)エコカー減税、(9)生活の安心確保、(10)地方支援といった2009年度2次補正予算において予算が割り当てられた 政策も考慮されている。次に、財源捻出のための政策としては、(11)公共投資・人件費等の削減及び家計に関する事業見直しなどの歳出削減であり、 (12)たばこ増税、(13)扶養控除の廃止といった税制改正による家計に対する負担増である。以上の想定に基づき、鳩山内閣の政策効果を推計した。
    シミュレーション結果によれば、その政策は、2010年度に実質GDPを0.09%、2011年度に0.12%、それぞれ引き上げることになる。このよ うに、政策の成長貢献の程度は大きくないことがわかる。しかし、成長の中身をみると、民間消費は拡大するが、公共投資や政府の人件費(政府最終消費)が削 減されて、結果として経済を拡大させる純効果は非常に小さくなっているのである。たしかに、「コンクリートから人」という意味での政策効果は出ていると言 えるが、重要な問題は、民主党がどのような成長戦略を国民に示すかである。このままでは、結局、日本経済の行く末は輸出の動向によって決まるパターンに なっているのである。筆者は、日本の成長戦略の柱として環境部門を中心に国内外を問わず全面的に展開していくこと以外にないのではないかと考えている。 (稲田義久)
    注:本シミュレーションの詳細は、http://www.kiser.or.jp/ja/index.htmlの「第81回景気分析と予測」に掲載。

    日本
    <10-12月期は持続性に欠けるが、引き続き高めの成長率を予測>

    1月18日の予測では、12月の国内企業物価指数、輸出入物価指数、11月の民間機械受注、情報サービス業売上高、国際収支統計が更新されている。支出 サイドモデルは、10-12月期の実質GDP成長率を前期比年率+4.6%と12月の見通しより下方修正されたものの、依然として高めの成長を予測してい る。超短期予測はGDP統計の推計基礎となる月次統計の変化を忠実に反映する、”Go by the Numbers”ともいえるテクニカルな予測手法である。
    一方、マーケットコンセンサスは、超短期予測に比べ低めの成長予測となっており、対照的である。1月14日に発表されたESPフォーキャスト1月調査で は、10-12月期の実質GDP成長率予測は同+1.82%と前月調査の+1.27%から上方修正されている。過去の経験からみて成長率予測のマーケット コンセンサスは金融市場の動向に比較的大きな影響を受ける。前回の12月調査ではドバイショックによる株価の下落や円高を反映して低めの予測となったが、 1月調査では株価の回復、円高の修正等の好条件により上方修正となったと考えられる。
    超短期予測によると、10-12月期の国内需要について、実質民間最終消費支出は景気対策の影響により前期比+0.6%と引き続き堅調な伸びとなる。実 質民間住宅は同+5.2%と4期ぶりのプラスなるが、実質民間企業設備は同-0.8%と低調である。実質政府最終消費支出は同+0.5%、実質公的固定資 本形成は同+2.4%となる。このため、国内需要の実質GDP成長率(前期比+1.1%)に対する寄与度は+0.5%ポイントとなる。
    財貨・サービスの実質輸出は同+4.3%増加し、実質輸入は同-0.8%減少する。このため、実質純輸出の実質GDP成長率に対する寄与度は+0.6% ポイントとなる。このように、内需が前期から反転拡大し、純輸出も引き続き拡大するため、4%程度の高い成長を予測している。一方、主成分分析モデルも、 10-12月期の成長率を前期比年率+7.1%と予測している。
    1-3月期は、純輸出は引き続き拡大するが、内需、純輸出とも拡大のペースが減速するため、前期比+0.1%、同年率+0.3%と予測している。この結果、2009暦年及び年度の実質GDP成長率はそれぞれ-5.1%と-2.3%となろう。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国

    1月15日の超短期予測は12月の鉱工業生産指数、小売販売額、消費者物価指数、輸出入物価指数、11月の企業在庫、貿易収支までを更新している。グラ フに見るように、10月の経済指標を更新し始めるや景気はスローダウンを始め11月25日の超短期予測は0%の経済成長率を示し、ダブルディップリセッ ションの可能性を一時的に示した。しかし、12月4日以降になり、11月の経済統計を更新し始めるとそれまでの実質GDPの下降トレンドは上昇トレンドに 転換し、1月15日の超短期予測では、2009年10-12月期の実質GDP成長率は前期比年率+3.6%(支出サイドと所得サイドの平均)を示してい る。コア個人消費支出(PCE)価格デフレーター、GDP価格デフレーターでみた同期のインフレ率は約1.5%と落ち着いており、FRBのインフレ許容範 囲内(1%?2%)にある。しかし、PCE価格デフレーターはエネルギー価格の高騰により3.5%にまで上昇している。
    10-12月期の支出サイドの実質GDP成長率は4%を超える可能性が出てきた。これは在庫が少しずつ増え始めたことによる。在庫の成長率寄与度が3 %?4%になると予想されるのは、7-3月期の在庫調整が-1,410億ドルと大きいからである。しかし、景気回復が持続的に堅調とは言い難い。在庫を除 いた経済成長率を見れば、マイナス成長も考えられる。すなわち、実質最終需要の伸び率は下降トレンドを示しており、超短期予測は-1.0%の伸びとなって いる。2010年1-3月期も1%以下である。10-12月期の実質GDPの高い伸びにもかかわらず、米国経済の回復は緩やかであり、いまもって脆弱と見 るのがよいであろう。
    1月13日に発表されたFRBのベージュブックでは、12のうち10の地域連銀は景気の改善を報告している。輸出の伸び率の改善からもわかるように、多 くの地域で製造業が改善している。労働市場はいまもってほとんどの地域で悪いが、ニューヨーク連銀とセントルイス連銀は改善の様子を報告している。

    [[熊坂侑三 ITエコノミー]]

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2009年12月)

    インサイト

    インサイト » コメンタリー

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    <GDP統計にもっと資金と人材を投入すべし>

    12月9日発表の日本のGDP2次速報値によれば、7-9月期の実質GDP成長率は前期比年率+1.3%となり、1次速報値(同+4.8%)から3.5%ポイントの大幅下方修正となった。
    実質GDP成長率下方修正の主な要因は、実質民間企業設備が1次速報値の同+6.6%から同-10.6%に大幅下方修正されたことにある。これは、民間 企業設備の2次速報値推計の基礎データである法人企業統計調査(需要統計)の低調な結果を反映したものである。一方、1次速報値推計の基礎データ(供給統 計)である資本財出荷指数が7-9月期に前期比+8.1%と7四半期ぶりのプラスとなったことからすれば、企業設備投資の大幅下方修正はネガティブサプラ イズであった。
    2次速報値は、供給統計と需要統計の加重平均で決まる。異なる変化の方向を示すデータを平均したため、大幅な下方修正となったといえよう。7-9月期の 民間企業設備の供給側の動きが需要側に反映されなかったため、これが10-12月期の需要データに後ずれして現れる可能性が高い。いずれにせよ、これを契 機にGDP統計の信頼性をめぐる議論が再び高まっている。

    GDP統計の信頼性をめぐる議論を高めたもう一つのポイントは、速報値が過去にさかのぼって大幅に改定されたことである。実質GDP成長率の四半期パ ターンを過去に遡及し比較してみれば、2008年4-6月期は-5.2%ポイント(前期比年率-2.9%→同-8.1%)の下方修正となった。一方、 2008年1-3月期は1.6%ポイント(同+4.0%→同+5.6%)、7-9月期は2.5%ポイント(同-6.5%→同-4.0%)、10-12月期 は1.3%ポイント(同-11.5%→同-10.2%)、2009年1-3月期は0.3%ポイント(同-12.2%→同-11.9%)と、いずれも1次速 報値から上方修正された。2008年1-3月期が上方修正されたことから、2008年度から2009年度にかけての成長率のゲタは1次速報値の-4.2% から-3.8%に引き上げられた。
    ちなみに、12月2日に公表された2008年度国民経済計算確報値では同年度の実質GDPが速報値の-3.2%から-3.5%に改定されて、戦後最大の 落ち込みとなったことが判明した。悪いことには、12月7日に内閣府は確報値に間違いがあることを報告し、さらに-3.7%へと下方修正した。

    このように推計ミスやこれまでにない速報値の大幅下方修正が目立っており、GDP統計に対する信頼が今回大きく揺らいでしまった。根本的な原因ははっき りしている。GDP統計推計のために資源があまり投入されていないからである。適切な経済政策のためには正確な景気診断が必要条件である。このために政府 はもっと資金と人材を投入すべきであろう。GDP統計に対する不信感は、投資家の”Japan Passing”を加速するであろう。(稲田義久)

    日本
    <10-12月期は高めの成長を予測、悲観的な見方のマーケットコンセンサスとは対照的>

    12月14日の予測では、10月の大部分の月次統計と7-9月期のGDP2次速報値が更新された(GDPの改定については今月のトピックスを参照)。支 出サイドモデルは、10-12月期の実質GDP成長率を、内需が反転拡大し純輸出も引き続き拡大するため、前期比+1.6%、同年率+6.6%とマーケッ トコンセンサスとは異なり高く予測する。ちなみに、マーケットコンセンサスは、ドバイショックによる株価の下落や円高を反映して、年率+1.27%と前月 の+1.50%から下方修正されている(12月ESPフォーキャスト調査)。
    1-3月期は、純輸出は引き続き拡大するが、内需、純輸出とも拡大のペースが減速するため、前期比+0.4%、同年率+1.7%と予測している。この結 果、2009暦年及び年度の実質GDP成長率はそれぞれ-5.0%と-2.0%となろう。GDPデータの大幅改定により、2008年度から2009年度に かけての成長率のゲタは1次速報値の-4.2%から-3.8%に引き上げられたものの、2009年7-9月期が3.5%ポイント引き下げられた。データ改 定を反映した超短期予測は2009年度の成長率については前回より0.1%ポイント下方修正している(-1.9%→-2.0%)。
    10-12月期の国内需要を見れば、実質民間最終消費支出は前期比+0.7%となる。実質民間住宅は同+5.7%となるが、実質民間企業設備は同 -0.4%減少する。実質政府最終消費支出は同+0.5%、実質公的固定資本形成は同+2.6%となる。このため、国内需要の実質GDP成長率(前期 比+1.6%)に対する寄与度は+0.6%ポイントとなる。
    財貨・サービスの実質輸出は同+6.1%増加し、実質輸入は同-2.2%減少する。このため、実質純輸出の実質GDP成長率に対する寄与度は+1.0%ポイントとなる。
    主成分分析モデルも、10-12月期の成長率を前期比年率+8.0%と予測している。また1-3月期を同+3.7%とみている。この結果、支出サイド・ 主成分分析モデルの実質GDP平均成長率(前期比年率)は、10-12月期が+7.3%、1-3月期が+2.8%となる。
    マーケットでは日本経済に対する悲観的な見方が強まっている。しかし、超短期予測は、これとは異なり、日本経済は年度末にかけては減速するものの、世界 経済回復の影響を受け、純輸出に牽引されて比較的堅調な成長パスを辿るものと予測している。ただ、政策効果が剥落する2010年度前半の経済政策が極めて 重要となるという点ではマーケットと同じである。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国

    12月11日の超短期予測では10月の貿易収支、11月の小売販売、輸出入物価指数までを更新している。その結果、実質GDP成長率は需要サイドでは純 輸出の改善、個人消費支出の上方修正から、所得サイドでは企業収益の上方修正から、それぞれ前期比年率+3.1%、同+0.9%へと大幅に上方修正され た。しかし、超短期モデルによる2009年の実質最終需要の伸び率は+0.5%程度と予測されている。更に、懸念されるのは実質国内需要、実質最終需要 (GDP?在庫)が過去4週間の超短期予測では下降トレンドを形成していることである。
    バーナンキFRB議長が12月7日、ワシントンD.C.において”Frequently Asked Questions”という講演を行い、そのうちの一つのトピックスが”今後の米経済の行方”であった。彼の講演要旨は次のようなものであった。
    ・これまでの在庫調整によって生産が拡大する様子が見えてきたが、持続的な景気回復には最終需要の復活が不可避である。
    ・企業の新しい設備・ソフトウエアへの支出が一時的にも安定してきた。
    ・ 住宅市場、個人消費支出、設備投資、グローバル経済において改善傾向が見られる。
    ・しかし、米経済は今もって低調な労働市場、慎重な消費支出、厳しい資金市場など“手に負えない逆風”をうけて  いる。
    ・インフレに関してはかなりの需給ギャップから賃金・物価トレンドの上昇が抑えられており、長期のインフレ期待  は安定している。
    超短期予測はバーナンキFRB議長の景気の見方とほぼ一致する。超短期予測は現在の実質GDP成長率(需要サイドと所得サイドの平均)を+2.0%、イ ンフレ率を2%?3%とみている。実際に今の景気回復が持続的であると宣言するには早すぎるし、インフレに楽観的すぎるのも良くない。バーナンキFRB議 長の言うように、最終需要の復活が景気回復の鍵をにぎっていることは確かである。

    [ [熊坂侑三 ITエコノミー]]

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2009年11月)

    インサイト

    インサイト » コメンタリー

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    11月12日発表のESPフォーキャスト調査(7-9月期実質GDP1次速報値は反映されていない)によれば、今後の四半期成長パターンとして、 10-12月期前期比年率+1.5%から2010年1-3月期同+0.89%、4-6月期同+0.71%へと緩やかに減速するというのがマーケットではコ ンセンサスとなっている。
    また、マーケットの一部では、日本経済は2010年前半にマイナス成長に陥り、08年10-12月期と09年1-3月期の2期連続の二桁マイナス成長と併せて考えれば、W字型、ダブルディップ型不況に陥る可能性が高いとみている。
    一方、11月17日の超短期予測(支出サイドモデル)は、10-12月期の実質GDP成長率を、内需と純輸出は引き続き拡大するため、前期比年 率+4.2%と予測する。また1-3月期の実質GDP成長率を、純輸出は引き続き拡大するが内需が息切れするため、同+0.3%と予測している。
    超短期予測もマーケットコンセンサスも、景気のパターンとしては2010年前半にかけて経済は減速するという点では一致している。その理由は、内需が再び縮小する可能性が高いとみているためである。特に、民間最終消費支出と公的需要の動向がポイントとなる。
    民間最終消費支出の先行きついては、所得環境が悪化しており、加えて財政政策の効果が年度越しには剥落するため、追加的な政策なしには減速ないしはマイナス成長が避けられない。
    7-9月期の雇用者報酬は前期比年率-0.7%と6期連続のマイナスとなり、前年同期比では-3.7%と5期連続のマイナスを記録した。加えて冬のボー ナスもマイナスが必至で、先行き所得環境は厳しい状況が続こう。2期連続の二桁のマイナス成長により急拡大した需給ギャップはなかなか縮小せずデフレ圧力 が強まっている。デフレスパイラルに陥るリスク確率も上昇してきており、民間消費の先行きは明るくない。

    もう一つのポイントは公的需要である。人口高齢化に伴う政府最終消費支出の増加トレンドは避けられないが、「コンクリート」から「人」へという現政権の 政策スタンスで、公共投資の削減は必至である。現状では先行き公的需要の経済成長への貢献は期待できないということになる。
    とすれば、ダブルディップ不況を避けるためには、さらに外需依存を強めるか新たな内需の創出が必要となる。外需の今後の動向については、海外欧米市場の 回復に大きな期待は持てない。活発なアジア市場はこれまで景気回復の一翼を担ってきたが、欧米市場の回復なくして外需の持続可能性に問題がある。とすれ ば、新たな内需創出がカギとなる。民主党政権は、「コンクリート」から「人」へというスローガンで公共投資を削減するが、その努力を環境投資拡大促進に向 けるべきであろう。実際その方向に進んでいるが、それを加速させる必要がある。日本経済がダブルリセッションに陥らないためにもタイミングの良い政策発動 が重要である。(稲田義久)

    日本
    <政策効果大きく7-9月期は高成長となったが、年度末にかけては減速か?>

    11月16日(月)発表のGDP1次速報値によれば、7-9月期の実質GDP成長率は前期比+1.2%、同年率+4.8%となり、2四半期連続のプラス となった。景気対策効果と輸出の増加がその背景にある。7-9月期の実績は4-6月期の同+2.7%を上回り、2007年1-3月期(同+5.7%)以来 の高い成長率となった。
    実績は超短期予測の平均値(+3.9%)や市場コンセンサス(ESPフォーキャスト:+2.5%)を上回った。超短期予測最終週での予測では、支出サイ ドモデルが同+2.9%、主成分分析モデルが同+5.0%を予測していていた。主成分分析モデルの予測は実績により近いものとなった。超短期モデルの予測 動態からわかるように、7-9月期の月次データが利用可能となる8月後半から2%台後半、9月に入り3%台後半の成長率を予測していた。

    7-9月期の実質GDP成長率(前期比年率)への寄与度を見ると、内需は3.4%ポイント成長率を引き上げた。内需が成長率引き上げに貢献したのは1年半ぶりである。また純輸出も成長率を+1.5%ポイント引き上げたことがわかる。
    実質民間最終消費支出は同+2.8%と2期連続のプラスとなり、実質GDP成長率を1.7%ポイント引き上げた。所得環境が悪い中、民間最終消費支出が 伸びたのは、政策効果(エコポイント制度、自動車取得促進税制、補助金)による影響が大きい。実際、耐久消費財は同+31.4%と大幅に伸びた。
    実質民間企業設備は同+6.6%と6四半期ぶりのプラスとなり、実質GDP成長率を0.9%ポイント引き上げた。実質民間企業在庫品増加は実質GDP成長率に+1.6%ポイント貢献した。3期ぶりのプラス貢献で在庫調整に一段落がついたと思われる。
    アジアからの輸出需要の高まりで、財貨・サービスの実質輸出は同+28.0%増加し、2期連続のプラス(寄与度+3.5%ポイント)となった。一方、同実質輸入は同+14.1%(寄与度+3.3%)増加した。3期ぶりのプラス成長である。
    実質民間住宅は同-27.5%と3期連続のマイナスである。マンションを中心に大幅なストック調整が起きている。民間住宅は実質GDP成長率を0.9%ポイント引き下げた。
    公的需要は同+0.3%の増加にとどまり、実質GDP成長率にはほとんど貢献しなかった。うち、実質公的固定資本形成は同-4.9%減少し、実質GDP成 長率を0.1%ポイント引き下げた。一方、実質政府最終消費支出は同+1.5%増加し、寄与度は+0.1%ポイントとなった。
    所得環境は悪化しており、雇用者報酬は同-0.7%と6期連続のマイナスとなった。前年同期比では-3.7%と、5期連続のマイナスを記録した。冬のボーナスもマイナスとなり、先行き厳しい状況が続こう。
    デフレータを見ると、GDPデフレータは前期比-1.2%と2期連続の下落となった。急激に拡大した需給ギャップはなかなか縮小せずデフレ圧力が強い。 前年同期比では+0.2%と4期連続のプラスとなったがプラス幅は縮小している。一方で、国内需要デフレータは同-2.6%と3期連続のマイナスで下落幅 が拡大している。日本経済はしばらくデフレから抜け出せないようである。
    11月17日の支出サイドモデル予測は、10-12月期の実質GDP成長率を、内需と純輸出は引き続き拡大するため、前期比+1.0%、同年 率+4.2%と予測する。1-3月期は、純輸出は引き続き拡大するが内需が息切れするため、前期比+0.1%、同年率+0.3%と予測している。この結 果、2009暦年及び年度の実質GDP成長率はそれぞれ-5.0%と-2.2%となろう。
    超短期予測は2009年度末にかけて景気減速を示唆しており、マーケットの一部ではダブルディップ不況を懸念している。持続的な成長に向けて新政権の政策舵取りに注目が集まっている。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国

    11月13日の超短期予測は10月の雇用統計や9月の貿易統計までを更新した予測である。グラフ1に見るように今期(2009年10-12月期)の実質 GDP伸び率を支出・所得サイドからそれぞれ-0.4%、+1.5%と予測している。これはウォールストリート紙による48人のエコノミストへの10月調 査の平均値(2.5%)よりかなり低い。超短期予測は米経済が7-9月期の+3.5%(前期比年率)成長の後、1%程度の成長率にまでスローダウンしてい るとみている。主な理由は景気刺激策による自動車購入等が終わり、企業も簡単に生産増加、在庫積み増しをしないと考えられるためである。
    しかし、市場には前期の実質GDP成長率が市場の予想(3.2%)を上回ったことから景気への楽観的な見方が広がっている。最も良い例は10月の雇用統計 に対する株価の反応である。10月の失業率は1983年6月以来26年振りに始めて10%を超えた。また、非農業雇用者数も9月の219,000人減から 190,000人減へと改善したものの、市場の予想(175,000人減)をかなり下回った。しかし、ダウ株価はその日も上昇し、結局その週のダウは3% 上昇し1万ドル台を確保した。
    通常ならば、市場の予想通りに改善していない労働市場に対して投資家はネガティブに反応するが、経済回復に楽観的になりつつある投資家は10月の雇用統計 が好ましくなかったことから、連邦準備理事会(FRB)がこれまでの低金利政策をかなりの間維持せざるをえないと考えるようになった。実際、11月3日 ‐4日に行われたFOMCミーティングのステートメントの中で、FRBは政策金利を0%?0.25%の間に据え置く期間を延長、また、量的金融緩和策も継 続するとしている。
    今週の超短期予測は10-12月期のインフレ率を1.5%程度と予測している。FRBの金融緩和政策の継続に疑問はないが、はたしてそれにより投資家が予 想しているような経済成長率が達成されるかは疑問であり、超短期予測は今のところ、投資家の景気への楽観的な見方がいずれは下方修正されるとみている。

    [ [熊坂侑三 ITエコノミー]]

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2009年10月)

    インサイト

    インサイト » コメンタリー

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    鳩山新政権は、世界に向けて2020年までに二酸化炭素(CO2)排出量を1990年比25%削減することを宣言した。もちろん、日本単独の努力ではな く、世界が協調・努力してとの条件付きであるが。この宣言のインパクトは大きく、特に大きな影響を受けることが予想される産業界からは大きな反対が表明さ れている。今月のトピックスでは、この宣言の実現可能性を議論するのではなく、議論に向けての新たな見方を提供したい。
    前政権のこの問題をめぐる議論のスタンスは、CO2削減率に応じて、そのコストを明示するというものであった。ところが今回は、まず25%削減という目標を設定し、それを実現するためにあらゆる政策を総動員し、日本を環境立国へ導くというスタンスに変わったのである。
    さて2007年度のCO2排出量は12億1,270万トンであり、1990年度=100とすると115.5となり、基準年から15%も高い水準である。 図1は日本のCO2排出量の部門別シェアの推移をみたものである。直近の2007年度では、最大の排出部門は産業部門であり、排出量全体の40.3%を占 める。次に、運輸部門(20.6%)、家計部門(15.6%)、業務部門(13.6%)、発電部門(10.0%)の順になる。

    図1から、産業部門のシェアはこの間20%ポイント程度低下しているが、依然としてCO2排出の最大のセクターとなっていることがわかる。一方、運輸、 家計、業務部門はそのシェアを拡大させているが、産業部門には及ばないことがわかる。当然この図からすれば、産業部門には最大の削減努力が求められる。た だし、図1は発電部門で発生するCO2を電力の使用量で各部門に按分したものであって、電力部門は登場しないことに注意が必要である。

    図2は、エネルギー供給部門と最終消費部門に分けてCO2排出量のシェアを見たものである。この図ではCO2排出の最大の貢献者は発電部門であることが わかる。1990-2007年度のCO2の年平均伸び率は0.9%である。発電部門の伸び率は2.2%であり、全体の伸びへの寄与度は0.8%ポイントと なっている。すなわち、CO2排出の最大の寄与は発電部門ということになる。実は図2による説明がグローバルスタンダードであり、図1による説明は日本独 自のものである。図1による説明では、発電部門の寄与(責任といってもよい)を見えにくくしているといえる。
    今後、CO2排出量25%削減を国民的課題として議論する場合は、まず発電部門の役割に十分な注意が向けられなければならない。例えば、再生可能エネル ギーやLNG火力発電のシェアを高める一方で、石炭火力のシェアを低下させることは重要な課題となる。当然、原子力発電のシェアも問題となろう。図2は、 エネルギー供給部門と同時に最終消費部門の役割の議論することの重要性を意味している。すなわち、25%削減の国民的課題はあらゆる政策の動員で解決され ねばならない。 (稲田義久)

    日本
    <7-9月期は2%台のプラス成長だが、持続性には公的需要の動向が鍵>

    10月19日の予測では、7-9月期経済を説明する月次データの約2/3、すなわち、8月のデータがほぼ更新された。支出サイドモデルは、7-9月期の 実質GDP成長率は、純輸出が引き続き拡大し、内需も小幅拡大するため、前期比+0.6%、同年率+2.5%と予測する。10-12月期の実質GDP成長 率は、純輸出が引き続き拡大するが、内需が横ばいとなるため、前期比+0.3%、同年率+1.1%と予測している。この結果、2009暦年の実質GDP成 長率は-5.7%となろう。新政権移行後の日本経済の先行きについて注目が集まっているところであるが、超短期予測は経済成長率は年内緩やかに減速すると みている。ちなみに、実質GDP成長率の市場コンセンサス(ESPフォーキャスト10月調査)は、7-9月期は前期比年率+2.3%、10-12月期は 同+1.3%となっている。超短期予測の見方とほぼ一致している。
    7-9月期の国内需要を見れば、実質民間最終消費支出は前期比+0.5%となる。実質民間住宅は同-2.2%、実質民間企業設備も同-2.8%と、民間 投資関連指標はいずれもマイナスながら減少幅は縮小してきている。実質政府最終消費支出は同+0.7%、実質公的固定資本形成は同-2.1%となる。この ため、国内需要の実質GDP成長率(前期比+0.6%)に対する寄与度は+0.2%ポイントとなる。久方ぶりに内需が景気を引き上げる。
    気になるのは、これまで景気を下支えしていた公共投資の勢いに陰りが見られることである。建設総合統計によれば、8月の公共工事は前年同月比4.1%増 加し9ヵ月連続のプラスとなったが、伸び率は3ヵ月連続で縮小した。先行指標である公共工事請負金額も7-9月期に前年同期比+11.2%となったが、伸 び率は前期(同+13.0%)からペースが落ちている。新政権での公共工事の縮小は必至であるから、2010年初にかけて景気の二番底の可能性は否定でき ない。
    財貨・サービスの実質輸出は同+4.8%増加するが、実質輸入は同+2.1%にとどまる。このため、実質純輸出の実質GDP成長率に対する寄与度は+0.4%ポイントとなる。
    主成分分析モデルは、7-9月期の実質GDP成長率を前期比年率+4.5%と支出サイドモデルより高めに予測している。また10-12月期を同+3.7%とみている。
    この結果、支出サイド・主成分分析モデルの実質GDP平均成長率(前期比年率)は、7-9月期が+3.5%、10-12月期が+2.4%となり、減速傾向に変化はない。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国

    米国の景気回復に対してかなり楽観的な見方をするエコノミストがでてきた。例えば、エンジェル元FRB理事は2009年7-9月期の実質GDP成長率が 前期比年率4%を超える可能性も示唆している。一方、超短期モデルはグラフに見るように支出・所得両サイドから2%程度の成長率を予想している。
    両者の見方の差異は在庫にある。在庫調整が同年4-6月期で完了し、7-9月期の在庫増は実質GDP成長率を1%以上押し上げていると市場は予想してい るようである。一方、超短期予測は、8月までの製造業、卸売業、自動車の在庫統計を更新したが、大幅な在庫調整が7-9月期も行われたと予測している。 7-9月期(4-6月期)の製造業、卸売業、小売業の実質在庫を、それぞれ、-270億ドル(-400億ドル)、-890億ドル(-730億ドル)、 -810億ドル(-510億ドル)と予測している。ただし、超短期モデルは7-9月期の名目財輸入の伸び率を40%超と予測している。しかしこれは、石油 の在庫増にもかかわらず卸売業の在庫減をかなり大きく予想しているというリスクもある。一方、Cash-for-Clunkersプログラムによる自動車 在庫の減少を考えると、小売業における大幅な在庫調整(7-9月期)の可能性は十分にある。
    7-9月期の予測を強気にする2つの要因は、実質個人消費支出が前期比年率4%程度伸び、実質住宅投資が同10%程度伸びたことである。一方、4-6月 期においてそれぞれ下落した実質輸出、輸入も7-9月期にはそれぞれ同20%程度の大幅な伸び率となったと思われる。このように、在庫、輸出入の予測に関 して大きな不確実性が残るとき、景気判断にはその他の集計指標を同時にみるのがよい。
    10月9日の超短期モデルによる7-9月期の(10-12月期)の経済成長率は以下の通りである。実質GDP:前期比年率+2.0%(同+1.7%)、 実質総需要:同+4.3%(同+1.3%)、実質国内需要:同+2.9%(同+1.6%)、最終需要タイプ1(=GDP-在庫):同+2.5% (同+2.1%)、最終需要タイプ2(GDP-在庫-純輸出):同+3.4%(同+1.9%)。このように、複数の集計指標から景気を判断すれば、 2009年7-9月期、10-12月期の実質GDP成長率をそれぞれ3%、2%程度と想定するのが適切と思われる。

    [ [熊坂侑三 ITエコノミー]]

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2009年9月)

    インサイト

    インサイト » コメンタリー

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    8月30日に行われた衆議院総選挙で、民主党を中心とする野党勢力が議席の3分の2を確保した。この結果、今後の経済に対する政策アプローチが大きく変 わることになる。今後の民主党の政策運営については、同党のマニフェストを除いて具体的な金額などを盛り込んだ形での発表はまだ行われていない。ここで は、民主党マニフェストの「工程表」から政策運営が経済にもたらす影響を推計しよう。
    表1は、民主党のマニュフェストの工程表をベースに、景気対策支出額を見たものである。マニフェストでは2009年度に対して最終(2013)年度にな るほど支出金額は明確になるが、それ以外の年では一部支出金額の支出状況は不明確である。そのため、2010年度から12年度の金額については、工程表を ベースに実現可能性を考慮して推計した。
    主な項目は、①子ども手当・出産支援 (同1.3(2013年度時点の所要額5.5兆円)、②暫定税率の廃止(同2.5兆円)、③医療・介護の再生(同1.6兆円)、④高速道路の無料化兆 円)、⑤農業の戸別所得補償(同1.0兆円)などである。要するに家計に対する所得補償型政策が中心となっていることがわかる。

    一方、これらの財政支出の財源は、①予算の組み替えによる無駄な歳出の削減(2013年度時点で9.1兆円)、②「埋蔵金」や資産の活用(同5.0兆 円)、③税制見直し(同2.7兆円)によってファイナンスされることになっている(表2参照)。しかし、2010年度からの早急な実施が困難なものもあ る。特に、公共事業のスリム化や税制改革などである。支出財源が確保できない場合は国債発行によって賄われることになる。
    以上のような支出と財源の見通しから財政バランスの見通しをまとめると、2010年度、2011年度は支出が拡大する一方で、財源の手当てが間に合わないため、財政赤字が拡大することになる(表3上段)。
    GDPに与える影響では、純支出額に着目する必要がある。純支出額の計算には、支出である「埋蔵金」や資産の活用はコストがかからないから考慮しない。 したがって、純支出額は支出措置額から歳出削減額(予算の効率化)・増税額(税制改革)を減じた額となる(表3中段)。またGDP成長率には、この純支出 額の年度間増減幅が影響する(表3下段)。この増減幅が拡大する2010年度、2011年度にはGDP成長率が押し上げられることになる。2012年度、 2013年度には、増税や歳出削減が進み、増減幅が縮小するため、GDP成長率を押し下げることになる。

    最後に、この純支出増減幅を基に、関西経済に対する影響を試算しよう(表4)。試算では、GRP成長率に直接寄与する政策として、子ども手当・医療介護 の再生・農業の戸別所得補償・暫定税率の廃止の4つの政策を取り上げて計算した。また工程表の支出額は日本全国を対象とした額であるため、これに関西の世 帯数割合17.1%を乗じて、関西への影響額としている。さらに、関西経済予測モデルの消費関数の長期消費性向0.464を乗じて追加的消費支出金額を計 算している。これを関西のGRP(89.4兆円、2010年度の予測値)と比較する。この結果、2010年度には0.4%程度、2011年度には0.3% 程度のGRP押し上げ効果となる。しかし、2012年度、2013年度には-0.3%、-0.5%とGRPにマイナス効果をもたらすことになる。

    以上、経済効果を示した。より詳細な分析のためには、家計調査報告に基づいた所得階層別の分析が必要となろう。民主党政権が考える内需、特に、家計消費 の刺激を起点とする経済成長シナリオにより、どのような成長パスが実現されるのか、今後の政策運営動向に注視しなければならない。  (稲田義久・入江啓彰)

    日本
    <7-9月期、内需は久方ぶりにプラス成長に転じるも、持続性に疑問>

    9月11日発表のGDP2次速報値によれば、4-6月期の実質GDP成長率は前期年率+2.3%となり、1次速報値(同+3.7%)から下方修正となった。
    実質GDP成長率下方修正の主要因は、民間企業在庫品増加である。実質民間企業在庫品増加は1次速報値の前期比-2.0%ポイント(寄与度年率ベース) から同-3.1%ポイントへと下方修正された。在庫調整が想像以上に進展していることを確認した。今後は在庫投資の積み上げが期待され、先行きにとっては 悪くない結果である。
    9月14日の予測では、8月の一部のデータと7月のデータがほぼ更新され、また4-6月期のGDP統計2次速報値が追加されている。支出サイドモデル は、7-9月期の実質GDP成長率を、純輸出は引き続き拡大し、内需も小幅拡大するため、前期比+0.9%、同年率+3.6%と予測する。
    10-12月期の実質GDP成長率を、純輸出は引き続き拡大するが、内需が横ばいとなるため、前期比+0.5%、同年率+1.9%と予測している。この結果、2009暦年の実質GDP成長率は-5.5%となろう。
    7-9月期の国内需要を見れば、実質民間最終消費支出は前期比+0.5%となる。実質民間住宅は同-0.8%、実質民間企業設備も同-2.1%といずれも マイナスながら小幅の減少にとどまる。7月の工事費予定額(居住用)と資本財出荷指数は前月比ともにプラスになっており、7-9月期の民間住宅や企業設備 が前期比で安定化する可能性が出てきた。実質政府最終消費支出は同+0.5%、実質公的固定資本形成は同-1.0%となる。このため、国内需要の実質 GDP成長率(前期比+0.9%)に対する寄与度は+0.3%ポイントとなり、久方ぶりに内需が景気を引き上げる。
    財貨・サービスの実質輸出は同+5.7%と増加するが、実質輸入は同+1.9%にとどまる。このため、実質純輸出の実質GDP成長率に対する寄与度は+0.5%ポイントとなる。
    一方、主成分分析モデルは、7-9月期の実質GDP成長率を前期比年率+3.6%と予測しており、支出サイドからの予測と一致している。また10-12月期を同+3.4%とみている。
    この結果、支出サイド・主成分分析モデルの実質GDP平均成長率(前期比年率)は、7-9月期が+3.6%、10-12月期が+2.6%となる。
    日本経済は4-6月期以降、内需が小幅ながら緩やかなプラス成長に転じている。しかし、今後は、民主党による補正予算の見直しも含め補正予算の政策効果 が剥落してくるため、経済のプラス成長の持続性には疑問が出ている。2010年度の民主党の消費拡大効果が出る前に一時的にマイナス成長に陥る可能性があ ることを指摘しておく。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国

    グラフに見るように、8月の雇用統計を更新した時点で超短期モデルは2009年7-9月期の実質GDP成長率を+1.3%と予測している。これは2008年4-6月期以来1年振りのプラス成長である。
    支出サイドから実質GDP成長率が急速に上昇した主な理由の一つには”Cash-For-Clunkers Program” (エコカー購入促進システム)により、自動車購入が増え実質個人消費支出が増えたことが上げられる。超短期モデルは実質耐久財の個人消費支出が2009年 7-9月期に11.9%(前期比年率)伸びると予測し、個人消費支出全体の伸び率を同+2.0%と予測している。エコカー購入促進システムによる購入が自 動車の在庫減になればその分GDP成長率の増加は相殺されるが、新車の生産につながればGDP成長率は高まる。支出サイドからの経済成長率上昇のもう一つ の大きな理由は実質住宅投資が7-9月期に同9.1%伸びると予想されていることによる。これは7月の民間住宅建設支出が2.3%(前月比)と大幅に上昇 したことによる。実質住宅投資の伸び率がプラスに転じるのは2005年10-12月期以来14四半期振りのことである。
    一方、所得サイドからの実質GDP成長率プラス転換の主な理由は2009年4-6月期の統計上の誤差が2,250億ドルと大きくなり、その結果7-9月 期の統計上の誤差も2,280億ドルになると超短期モデルが予測していることである。この統計上の誤差はGDP比率でみると1.6%に相当する。もう一つ の理由は、1-3月期、4-6月期とそれぞれ前期比-14%、同-5%と大きく落ち込んだ賃金・俸給が7-9月期には0%にまで持ち直すと予想されている ことが挙げられる。
    しかし、7-9月期経済のプラス成長の持続性には問題が残る。エコカー購入促進システムが8月24日で終了し、今後の個人消費支出の落ち込みが予想され る。また、住宅市場に回復の兆しが見えたものの今度は商業用不動産市場が悪化していることがある。所得サイドにおいても失業率が8月には9.7%と 1983年以来の高い水準になり、遅行指数とはいいながら労働市場の回復にはまだかなりの時間がかかるとみられ、個人消費支出の鍵をにぎる賃金・俸給の堅 調な伸びが今もって期待できない。このように、米国経済は7-9月期に一旦プラス成長に戻るものの、その持続性には多くの懸念が残る。

    [ [熊坂侑三 ITエコノミー]]

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2009年8月)

    インサイト

    インサイト » コメンタリー

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    関西社会経済研究所は7月30日、岩田一政氏(内閣府経済社会総合研究所所長)と櫨浩一氏(ニッセイ基礎研究所経済調査部部長)をパネリストとして招 き、「世界同時不況からの回復?夜明けは見えたか?」というテーマで景気討論会を行った。政権交代の可能性が高まる中、短期的には政策や景気の見通しにつ いて不確実性が高まるという状況での討論会であった。
    各パネリストの議論は、それぞれが得意とする中期、短期、超短期をカバーした非常に内容の充実したものとなった。以下、景気討論会での重要と思われる議 論を紹介する。8月30日には総選挙結果の如何を問わず、今後の景気見通しや経済運営の議論にとって重要と考えられるからである。

    内閣府の中期経済見通し
    岩田氏は、内閣府試算の最新の中期経済の見通しから3つのシナリオを提示された。3つのシナリオとは、2011年度から毎年消費税率を1%ポイント、累 計で3%、5%、7%の引上げを行った場合の、それぞれの経済成長率と財政の基礎収支(プライマリーバランス)のパスを示したものである。プライマリーバ ランスは、成長戦略と景気回復で2007年度に-1%台まで改善したが、2008年度の大不況と大規模な財政出動で大幅に悪化し、2009年度には -8.1%まで低下すると見込まれるため、2011年度黒字化の目標はすでに放棄された。
    今後この3つのシナリオが実現された場合、プライマリーバランスが黒字化する時期は、消費税率引き上げが7%ポイントのケースは2018年度、5%ポイ ント引き上げのケースは2021年度となる。それ以外のケース(3%ないしはゼロ%)では2023年度までに黒字は実現できないようである。図からわかる ように、今回の大不況は、日本のプライマリーバランスの改善を10年程度先送りにしたことになる。

    内閣府の試算では、日本経済の成長率のパスは2008-09年度に2年連続の-3%台のマイナス成長の後、2010年度は+0.6%となり、2012年度までは大幅な需給ギャップを埋めるため3%程度の比較的高い成長を経たのち、以降潜在成長率に戻るというものである。
    最終目的としての政府債務/名目GDP比が2010年代半ばに安定化し、2020年代に低下するためにも、長期実質金利が低位安定的でなければならな い。岩田氏の指摘によれば、長期金利は生産年齢人口の変化と関係しており、日米とも生産年齢人口がピークアウトする時期にバブルが発生したことから、今後 の日本の生産年齢人口比率が低下することは長期金利安定化の一助となるが、逆に、中国は生産年齢人口が上昇することから、今後バブル発生の可能性は高くな るという。これは、重要なポイントと考えられる。

    中国は米国市場に替わる役割を完全に担うことはできない
    短期的な視点に戻せば、2009年4-6月期の日本経済の実質成長率は純輸出のリバウンドで前期比プラス成長に転じ、景気の底打ちは確認できそうだが、 年後半は加速ではなく緩やかな回復にとどまる可能性が高い。米国の超短期予測が示すように、マーケットが期待するような回復には所得サイドから疑問が投げ かけられている。日本経済にとって重要な貿易パートナーである米国経済の急回復が期待できないとすれば、年後半の日本経済の回復は緩やかなものにとどまろ う。一方、新興諸国の代表である中国は、足下政策効果があらわれ経済成長率を加速させており、日本の中国向け輸出も前期比で増加している。しかし、公共投 資を中心とする財政政策では民間消費をけん引役とする内需拡大型成長は実現できない。結局、輸出の回復が戻らなければ、中国の高成長は持続可能でないであ ろう。その意味で、日本にとって、中国は米国市場に替わる役割を完全に担うことはできない。
    日本経済が、内閣府試算が示す3つのシナリオないしはそれ以外のシナリオをとろうとも、中期成長パスの初期条件として、2010年度の経済パフォーマン スないし景気回復の中身は今後にとって非常に重要な鍵となろう。その意味で、2010年度に効果が剥落する政策の存否については、その効果についての十分 な精査が必要である。(稲田義久)

    日本
    <4-6月期は5期ぶりのプラス成長に転じるも、年後半は勢いに欠ける>

    4-6月期の実質GDP成長率(1次速報値)は前期比年率+3.7%となり、5期ぶりのプラスに転じた。成長率への寄与度(年率)を見ると、国内需要は-2.8%ポイントと成長率を引き下げ、純輸出は+6.5%ポイント引き上げた。
    今回の回復の特徴は、景気対策効果と純輸出の大きな寄与である。実質民間最終消費支出は前期比年率+3.1%と3期ぶりのプラスとなり、実質GDP成長 率を1.9%ポイント引き上げた。もっとも所得環境は悪く、実質雇用者報酬は同-6.7%と2期連続のマイナス。にもかかわらず民間最終消費支出が伸びた のは、政策効果(エコポイント制度、自動車取得促進税制や補助金)による消費性向の一時的な高まりが影響している。
    一方、投資は住宅、企業設備ともに不調である。実質民間住宅は同-33.0%と2期連続のマイナスである。実質民間企業設備も同-16.1%と5期連続 で減少した。この結果、民間住宅と民間企業設備で実質GDP成長率を3.7%ポイント引き下げたことになる。また、実質民間在庫品増加は-2.1%ポイン ト成長率を押し下げた。大幅に在庫調整が進んだといえよう。
    公的需要は同4.7%増加し、実質GDP成長率を1.1%ポイント引き上げた。うち、実質公的固定資本形成は同36.3%増加し、寄与度は+1.4%ポイントである。
    外需をみると、実質純輸出は大きく経済成長率に貢献した。財貨・サービスの実質輸出は同+27.9%増加する(寄与度+3.2%ポイント)一方で、同実質輸入は同-18.9%(寄与度+3.3%)減少したためである。
    デフレータをみると、GDPデフレータは前期比-1.1%と3期ぶりの下落となった。需給ギャップの急激な拡大を背景にデフレ圧力が強まっている。
    今週の支出サイドモデル予測は、7-9月期の実質GDP成長率を、純輸出は拡大するが、民需(特に、民間住宅、民間企業設備)が不調となるため、前期比 年率+1.6%と予測している。10-12月期の実質GDP成長率も、純輸出は引き続き拡大するが、内需が引き続き悪化するため、同+0.6%と予測して いる。このように2009年後半の経済は、4-6月期のプラス転換にもかかわらず、勢いに欠ける。この結果、2009暦年の実質GDP成長率は-5.4% となろう。
    7-9月期の国内需要を見れば、実質民間最終消費支出は前期比+0.3%となる。実質民間住宅は同-3.7%と3期連続のマイナスとなる。実質民間企業 設備も同-5.3%と6期連続のマイナスとなる。実質政府最終消費支出は同+0.5%、実質公的固定資本形成は同+0.2%となる。このため、国内需要の 実質GDP成長率(前期比+0.4%)に対する寄与度は-0.3%ポイントとなる。
    財貨・サービスの実質輸出は同5.4%増加するが、実質輸入は同横ばいとなる。このため、実質純輸出の実質GDP成長率に対する貢献度は+0.7%ポイントとなる。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国
    <所得サイドから懸念される米国経済への楽観的見方 >

    6月の始め頃から米国景気の減速が緩やかになってきたことがわかってきた。このため、超短期予測は、6月から7月の始めにかけて米国景気に対して楽観的 な見方をするようになった。しかし、その後、超短期予測の改善は進まず、支出・所得サイドから4-6月期の実質GDP経済成長率を最終的には前期比年率 -1.1%と予測した。7月31日に発表された4-6月期の実質GDP速報値によれば、成長率は同-1.0%となった。実績は、超短期予測に近かったもの の、市場コンセンサスの同-1.5%よりマイナス幅が小さかった。このため、市場・エコノミスト達の間ではリセッションが2009年1-3月期に底を打 ち、これから景気が回復に向かうであろうという楽観的な見方が広まった。実際、多くのエコノミスト達は2009年7-9月期の経済成長率を+2%近くに上 方修正をしている。
    発表された経済統計が良くなくとも、それが市場のコンセンサスより良かった場合、市場・エコノミストにある種の楽観的な見方が生まれることがある。今 回、このことが雇用統計においても生じた。市場は7月の失業率が前月より0.1%ポイント上昇し9.6%になると予想していたが、結果は前月より0.1% ポイント低い9.4%となった。7月の雇用減も市場のコンセンサスをかなり下回る数字となった。このため、株価の高騰にみるように、市場、エコノミストの 間に景気回復に対する楽観的な見方が急速に広まってきた。更に、消費者が政府の補助を得てエネルギー効率のよい自動車に買い換え る”Cash?for?Clunkers Program(エコカー購入促進システム)” が予想以上に好調なこともエコノミスト達の楽観論を支えることになっている。
    8月10日の超短期予測では7月の自動車の小売販売統計が更新されていない。すなわち、”Cash?for?Clunkers Program”の経済への影響を考慮できていないことから、7-9月期の成長率予測は過小推計の可能性があるが、問題はグラフに見るように、所得サイド からのGDP予測が下降トレンドを示していることにある。所得サイドから景気回復がみられなければ、持続的・堅調な米景気の回復・拡大は難しい。その結 果、今の景気回復への楽観的な見方は期待はずれに終わることになるであろう。

    [[熊坂侑三 ITエコノミー]]

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2009年7月)

    インサイト

    インサイト » コメンタリー

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    <続:本当に1-3月期が景気の底か?>

    【センチメントは回復したが・・・】
    7月1日発表の日銀6月短観によると、最も注目される業況判断指数(DI)は、大企業製造業で-48となり、前回調査から10ポイント改善した。前期比 での改善は2006年12月調査以来2年半ぶりである。6月短観の業況判断DIは景気の底打ちを示唆するものであるが、その水準が極めて低く、大幅な需給 ギャップが存在しており、自律的な回復に疑問を抱かせる結果といえよう。
    6月調査の年度計画を見ると、2009年度の売上高計画は全規模・全産業ベースで前年比-9.5%と3月調査(-5.7%)から下方修正された。一方、2009年度経常利益計画は前年比-16.4%の減益が見込まれており、前回調査(-9%)から大幅下方修正された。
    生産設備の過剰感の拡大と企業業績の悪化で、設備投資計画は大きく下方修正された。2009年度の投資計画(全規模・全産業、ソフトウェアを除き土地投 資額を含む)では、前年比-17.1%と3月調査から4.2%ポイント下方修正された。2009年度前期は前年比-15.7%、後期は同-18.4%と後 半に減少幅の改善は見られない。
    また、6月の景気ウォッチャー調査によると、街角の景況感を示す現状判断DIは42.2となり、前月より5.5ポイント上昇した。6ヵ月連続の改善。前年比では12.7ポイント上昇し、2ヵ月連続の改善となった。
    景気ウォッチャー調査では、景気は、「良くなっている」から「悪くなっている」の5段階で評価される。また判断DIは5つの評価点と評価区分のウェイトの加重平均で計算される。
    6月は、「やや良くなっている(15.5%)」と「変わらない(49.4%)」と答えた割合は、前月からそれぞれ3.3%ポイント、7.9%ポイント上 昇しており、一方、「やや悪くなっている(20.9%)」と「悪くなっている(13.5%)」と答えた割合は、それぞれ3.6%ポイント、7.7%ポイン ト低下している。「やや悪くなっている」と「悪くなっている」の合計が前月から11.3%ポイント低下しており、その大部分は「変わらない」に流れてお り、景気ウォッチャー達は景気が最悪期を脱したが大きく改善したわけではないとみている。

    【4-6月期成長率予測、支出サイドモデルと生産サイドモデルのギャップは鉱工業生産の好調が原因】
    今月の日本経済見通しで述べているように、支出サイドモデルによれば、4-6月期の実質GDP成長率は、純輸出は拡大するが、民需(特に、民間住宅、民 間企業設備)が不調となるため、前期比年率-4.2%と予測される。一方、主成分分析(生産サイド)モデルは、4-6月期の実質GDP成長率を 同+2.0%と予測している。なぜ両モデルの予測が乖離するのであろうか。
    支出サイドモデルでは、GDP支出各項目を予測し、それを積み上げて成長率を予測する。そこで、4-6月期のGDP項目の予測を詳細に見てみよう。
    まず民間需要。実質民間最終消費支出は前期比+0.9%と、1-3月期の-1.1%から大きく回復する。5月の消費総合指数は、前月比0.6%上昇し 3ヵ月連続のプラス。補正予算による民間消費の底上げ効果が徐々に出てきているようである。家計調査報告によれば、勤労者世帯のうち定額給付金を受け取っ た割合は、4-5月累計で32.5%となっており、実収入を一時的に押し上げていることがわかる。もっとも、先行きについては家計の所得制約が強まるた め、民間消費の持続的拡大は期待できないであろう。実質民間住宅は同-8.7%と2期連続のマイナスとなる。実質民間企業設備も同-8.5%と5期連続の マイナスとなる。このように、民需では民間家計消費支出は好調であるが、民間投資が極めて弱いため、実質GDP成長率(前期比-1.1%)に対する寄与度 は-1.4%ポイントとなる。
    一方、公的需要は成長に貢献している。実質政府最終消費支出は同+0.4%、実質公的固定資本形成は同+5.3%となるため、成長率への寄与度は+0.3%となる。
    純輸出は景気回復に貢献している。財貨・サービスの実質輸出は同1.3%減少するが、実質輸入も同2.1%減少する。このため、実質純輸出の実質GDP成長率に対する寄与度は+0.1%ポイントとなる。
    生産サイドモデルでは、15の変数からなる主成分を用いて実質GDP成長率を予測する。すなわち、鉱工業生産指数、家計消費支出、小売業売上高、工事費 予定額(居住専用)、民間機械受注、公共工事請負金額、給与総額、交易条件、イールドカーブ、国内企業物価指数、消費者物価指数等である。このうち、5月 の鉱工業生産指数(前月比+5.9%)は3ヵ月連続のプラスと好調で、これが大きく成長率予測を引き上げている。支出サイドモデルで使用される資本財出荷 指数は5月に前月比7.5%下落し、8ヵ月連続のマイナスとなったのとは好対照である。
    以上が、両モデルの予測値が乖離する主たる理由である。今後支出サイドモデルがプラス成長に転じるきっかけは、6月の貿易統計と公共投資の結果となろう。(稲田義久)

    日本
    <回復力が弱い日本経済:鉱工業生産は3ヵ月連続プラスだが、見方は依然慎重>

    7月13日の予測では6月の一部と、5月のほぼすべてのデータが更新された。4-6月期のGDPを説明する3分の2の月次指標が出揃ったことになる。
    支出サイドモデルは、4-6月期の実質GDP成長率を、純輸出は拡大するが、民需(特に、民間住宅、民間企業設備)が不調となるため、前期比 -1.1%、同年率-4.2%と予測している。7-9月期の実質GDP成長率は、内需の減少幅が縮小するが、純輸出が悪化するため、前期比-1.6%、同 年率-6.1%と予測している。
    一方、主成分分析(生産サイド)モデルは、4-6月期の実質GDP成長率を前期比年率+2.0%、7-9月期を同-2.6%と予測している。
    この結果、支出サイド・主成分分析モデルの実質GDP成長率(前期比年率)の平均は、4-6月期が-1.1%、7-9月期が-4.3%となる。1-3月 期の-14.2%の大幅マイナスから、4-6月期はマイナス幅が大きく縮小するが、7-9月期に再び拡大するというパターンである。この2四半期いずれも 回復力が弱いのが我々の予測の特徴である。
    前月の予測と異なる点は、支出サイド、生産サイドいずれも実質GDP成長率が上方に修正されたことである。特に、生産サイドからの成長率予測 は+2.0%と前月からプラスに転じた。主成分分析モデルでは15の変数が使用されているが、うち鉱工業生産指数の好調がその要因となっている。実際、5 月の鉱工業生産指数は前月比5.9%上昇し、3ヵ月連続のプラスとなった。輸送機械工業、電子部品・デバイス工業等が上昇し、経済対策の効果が表れてきた ようである。たしかに経済は大幅なマイナス成長からのリバウンドで最悪期を脱したといえよう。しかし、問題は回復の持続力である。
    7月9日に発表されたESPフォーキャスト調査によると、4-6月期のコンセンサス予測は前期比年率+1.98%となっている。これは主成分分析モデル と同じ予測結果である。いずれも、好調な鉱工業生産指数の影響を受けているようである。しかし、経済全体で見た場合、景気回復にはまだまだ時間がかかり、 その判断には慎重にならざるを得ない。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国

    7月3日の超短期予測は、6月の雇用統計までを更新した結果、グラフに見るように6月に入り緩やかではあるが上昇トレンドを形成し始めた実質GDP経済 成長率を僅かに下方に修正した。成長率だけでなく、実質総需要、実質国内需要、実質最終需要のようなアグリゲート指標においても同じようにわずかながら下 方修正となった。しかし、グラフに見るように4-6月期の経済成長率は2008年10-12月期、2009年1-3月期の前期比年率-5%を下回る大きな マイナス成長から同-1%程度にまで回復していることが分かる。アグリゲート指標で2009年4-6月期の経済成長率をみても-2%?0%となっており、 前2四半期のような大きな落ち込みにはなっていない。
    成長率はいまだマイナスであるが、改善の様子は、製造業により明確に現れている。フィラデルフィア、リッチモンド、カンザス・シティー、ダラス、シカゴ の各連銀はそれぞれの地域の製造業のデフュージョンインデックスを毎月発表するが、それらの全てが2008年末までに底をうち、その後改善の傾向を示して いる。6月の時点で製造業の活動が拡大を示しているのはリッチモンド、カンザス・シティーの両連銀地域だけであるが、他の連銀地域では製造業活動のこれま での大きな縮小が急速に小さくなっている。シカゴ連銀の全米活動指数、ISM製造業指数をみても、2009年に入り製造業活動の縮小が急速に改善している ことがわかる。このように、米国経済においては製造業が最悪期から改善し始めた状況にあるといえる。
    しかし、6月の雇用統計で懸念されるのは景気先行指標としての平均週労働時間が0.3%減少したことである。この指数は3月に-0.6%と大きく下落し た後、4月、5月は横ばいとなったが、その後の景気回復により上昇することが予想されていた。7月3日の超短期予測では7-9月期のアグリゲート指標を含 む成長率を-2%?0%と4-6月期と同じ範囲に予想しており、米景気の回復(プラス成長)にはまだまだ時間がかかると思われる。

    [[熊坂侑三 ITエコノミー]]

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2009年6月)

    インサイト

    インサイト » コメンタリー

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    <本当に1-3月期が景気の底か?>

    【景気は1-3月期に底打ち?】
    この数週間、日本経済は1-3月期に底打ちしたのではないかという意見が民間エコノミストの間で主流となりつつある。政府や日銀からもそのようなコメン トがなされ、株価も1万円台をつけ先行きの明るさを示唆しているかのようである。今月の日本経済の見通しで示したように、現時点でわれわれの超短期予測は この見方に対して慎重になっている。以下、その理由を示そう。

    【月次データの結果はミックス】
    最近の経済指標を一瞥すれば、”景気底打ち”との見方を支持できそうである。鉱工業生産指数は3月、4月と2ヵ月月連続して前月比プラスを記録した。ま た好調な生産、出荷の影響で、4月の一致指数(CI)は前月比1.0ポイント上昇し、11ヵ月ぶりの改善となった。単月では判断しがたいが、これらは景気 の底打ちを示唆するデータといえよう。4月の輸出数量指数は前月比+10.3%と2ヵ月連続で上昇した。輸出は3月、4月に底打ちしたようである。
    またセンチメントが大きく改善している。5月の消費者態度指数は、5ヵ月連続で前月比プラスとなり、前年比でも30ヵ月ぶりの改善となった。5月の景気ウォッチャー調査でも、現状判断DIは5ヵ月連続の前月比改善となり、前年比でも2ヵ月連続のプラスとなった。
    このように、全体的にみると生産や出荷指数は2ヵ月連続で改善している。しかし、財別に見ると違う姿がうかがわれる。4月の資本財出荷指数は前月比 -10.1%低下し、7ヵ月連続のマイナスとなった。民間企業設備の基調は非常に弱い。また4月のコア機械受注は前月比-5.4%と減少し、2ヵ月連続の マイナスとなった。民間企業設備の先行きも明るくない。
    たしかに、消費者センチメントの悪化は止まり改善の方向に進んでいるが、最終需要の勢いは極めて弱い。またデフレ圧力の高まりで、今後1年の物価につい て、横ばいないし下落と見る消費者の割合は、初めて50%を超えた。景気ウォッチャーの見方でも、景気を「やや悪くなっている」と「悪くなっている」と評 価する割合は全体の5割弱もあることに注意しなければならない。これらはいずれも民間消費を押し上げるにはインパクトに欠ける。
    月次データの結果には良いものと悪いものとが入り交ざっており、同じデータでも両面が垣間見られる。景気回復期のデータの特徴といえよう。たしかに、この時期、景気診断は非常に難しいが、具体的でなければならない。

    【超短期予測の見方】
    われわれの超短期モデル予測の特徴を一言でいえば、”Go by the Numbers”である。予測において、月次データと四半期GDPを統計的にリンクしているのである。したがって、毎週、具体的に数字で示すことができ る。現時点では、4月の実績と5月、6月の月次データの予測値からGDPを予測している。今月の日本経済の見通しで示したように、4-6月期予測の特徴 は、純輸出の前期からの減少幅が縮小傾向にあるが、民間需要、特に、民間住宅と民間企業設備が弱い点である。今後2ヵ月で、公的需要と純輸出の回復が、ど こまで民間需要の弱さを相殺できるかが、実質GDP成長がプラスに転換できるかのポイントになる。たしかに、景気は改善の方向にあるが、経済がプラス成長 に転換しているかの判断は難しい。現時点での民間エコノミストの見方は、好調な鉱工業生産統計の影響を大きく受けていると思われる。鉱工業生産の経済全体 に占めるシェアは高々20%であることに注意しなければならない。〔稲田義久]

    日本
    <マーケットは1-3月期が景気の底、超短期予測は慎重>

    6月11日発表のGDP2次速報値によれば、1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率-14.2%となり、1次速報値(同-15.2%)から1%ポイ ントの上方修正となった。この結果、2008年度の実質GDP成長率は1次速報値の-3.5%から-3.3%へと上方修正された。
    実質GDP成長率上方修正の主要因は、民間企業設備及び民間在庫品増加である。実質民間企業設備は1次速報値の前期比-10.4%から同-8.9%へと 上方修正され、実質GDP成長率に対する寄与度は、-1.6%ポイントから-1.3%ポイントへと0.3%ポイント上昇した。また民間在庫品増加も1次速 報値の-0.3%ポイント(寄与度ベース)から-0.2%ポイントへ上方修正された。
    6月15日の予測では、1-3月期GDP2次速報値と12日までの月次データが更新された。支出サイドモデル予測によれば、4-6月期の実質GDP成長 率は、純輸出の減少幅は縮小するが、民需(特に、民間住宅、民間企業設備)が不調となるため、前期比-1.4%、同年率-5.5%となる。
    7-9月期の実質GDP成長率は、前期比-2.5%、同年率-9.7%と予測している。実質GDP成長率のマイナス幅が7-9月期に拡大するのは、内需 の減少幅は縮小するが、実質輸入の大幅増加により純輸出が再び悪化するためである。足下の輸入物価の大幅下落の影響を受け、7-9月期の輸入物価予測値が 大幅下落するため、実質輸入の予測値が上振れする。
    主成分分析モデルは、4-6月期の実質GDP成長率を前期比年率-2.6%と予測している。また7-9月期を同-6.2%とみている。
    支出サイド・主成分分析モデルの実質GDP平均成長率(前期比年率)は、4-6月期が-4.1%、7-9月期が-7.8%となる。図から明らかなように、この4週間、4-6月期の予測は上昇トレンドにあるが、依然としてマイナス成長にとどまっている。
    一方、別のアグリゲート指標である実質総需要(国内需要+輸出)の動きをみれば、4-6月期は前期比年率-4.5%、7-9月期同-3.8%と減少幅は緩やかに縮小している。このように成長率のマイナス幅は縮小の傾向にあるが、依然としてマイナス領域にある。
    マーケットでは、1-3月期が景気の底(したがって、4-6月期がプラス成長)という見方が広まっているが、超短期予測はそれほど楽観的ではない。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国
    6月5日の超短期予測では、同日に発表された5月の雇用統計までを更新している。グラフからわかるように、4月22日以来の実質GDP成長率の下降トレ ンドが止まり、上昇トレンドへの反転の可能性を示した。これはGDPのみならず、総需要、国内需要、最終需要などの他のアグリゲート指標についても同様に 見られた。6月5日の超短期予測の1回だけの予測結果によって景気の転換点を判断するには無理があるが、これまでの深刻な景気後退が緩やかになってきたこ とは認めてよいだろう。マーケットでは、5月の雇用減がコンセンサスの525,000人よりかなり低い345,000人となったことから、リセッションが 終結に向かいつつあるとの楽観的な見方がでてきた。
    しかし、景気先行指標としての平均週労働時間は、4月の33.2時間から5月には33.1時間へと減少した。もちろん、景気の遅行指標としての失業率は 今もって上昇を続けており5月には9.4%にまでなった。これは1983年8月以来の高さである。さらに、雇用減少は18ヵ月連続して続いている。これは 1981-82年のリセッション時と同じ記録である。
    このように労働市場の停滞を反映して、超短期モデルによる賃金・俸給の予測は、今期・来期とそれぞれマイナスの伸びを予想しており、個人消費支出の増加 に期待がもてない。しかし、6月5日の超短期予測では、4月の所得サイドの統計を更新することによって、政府から個人への移転所得の急増、個人の税支払い の減少が予測され、個人所得が今期、来期にそれぞれ1.9%、1.7%伸びると予測している。すなわち、景気刺激策の個人所得への効果がでてくる。一方、 最近の消費者センチメント・コンフィデンスの急速な高まりを考えると、個人所得の増加が個人消費の増加に結びつく可能性も高い。そうなれば、今回の超短期 予測で示された景気の転換点がより現実的となるだろう。

    [[熊坂侑三 ITエコノミー]]

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2009年5月)

    インサイト

    インサイト » コメンタリー

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    <2009年度補正予算のマクロ経済への効果とその含意: アンケート調査に基づく検討>

    【はじめに】
    関西社会経済研究所(KISER)では、麻生内閣による経済危機対策についてアンケート調査(ウェブベース)を行い、5月13日に速報結果を報告した。一 方、5月20日発表された1-3月期の実質GDP(1次速報値)は前期比年率-15.2%と戦後最大の落ち込みとなった。これをうけて、KISERは26 日に日本経済の四半期見通しを発表する。これまで財政・金融政策の効果をマクロモデルのシミュレーションを通じて分析してきたが、より正確を期すために、 昨年以来、マクロ・ミクロの両アプローチから検討している。今回のアンケート結果のミクロ情報がマクロモデル分析に援用される。本コラムでは、先般発表し たアンケート調査結果を精査し再検討した結果から、その政策効果や含意に焦点を当ててみよう。

    【アンケート結果の精査と政策効果の推計】
    アンケート調査では、経済危機対策(補正予算)のうち、低炭素革命関連、(1)エコカー購入への補助、(2)グリーン家電普及促進、(3)太陽光発電システム購入への補助、(4)住宅などの購入にかかわる贈与税の減免などを取り扱った。
    補正予算(財政政策)の効果により発生する需要の推計は、基本的にはアンケートによる回答率に母集団である世帯数(エコカーは保有台数)を乗じて計算し ている。1,000というサンプルから出来るだけ正確に母集団の行動を推計するため、速報発表後に回答率の精査を行うとともに母集団の選択にも注意を払っ た。さらに、政策に関係なく購入する予定者の割合から潜在的な需要を割り出し、それが業界の最近の販売量と大きく相違しないかチェックも行っている。
    1.エコカー
    今回の精査では、車を持っている人のうち(車歴13年以上90、13年未満631)、今後1年以内の車の購入予定がないと答え、さらに、新車購入の予定 はなかったがこの政策により新車を購入すると答えた人(車歴13年以上3、13年未満16)のみをカウントした。この比率を車歴13年以上、13年未満の それぞれの台数に乗じる。ちなみに、2008年3月末の乗用車登録台数は4,147万台(車歴13年以上817万台13年未満3,330万台)である。

    スクラップ促進策とエコカー減税による追加的な需要創出効果は、合計、111.7万台となる。これに1台あたり200万円(インサイト、プリウスの最も安いランクの価格を参考とする)をかけると、約2兆2,334億円が政策効果となる。
    2.グリーン家電
    現在グリーン家電(テレビ、冷蔵庫、エアコン)のいずれも購入予定はないが、制度が実施されるならエコ家電を購入したいと答えた人の中で、それぞれのエ コ家電を購入すると答えた人のみが今回の政策による追加的購入の該当者とみなしている。全サンプルに対する割合は、テレビは8.5%、エアコンは 6.6%、冷蔵庫は7.0%である。この割合を2009年3月時点の世帯数(労働力調査)に乗じて追加需要を、さらに当該エコ家電の平均単価を乗じて金額 を推計している。エコ家電のうち、テレビとエアコンについては全世帯数を母集団としているが、冷蔵庫については2人以上の一般世帯を母集団としている。

    グリーン家電普及促進策による追加的な需要創出効果は、合計、1,010.4万台となり、約1兆480億円が政策効果となる。
    3.住宅用太陽光発電システム
    2005年国勢調査によると、全世帯4,906万世帯のうち、持家一戸建の世帯は2,539万世帯である。全世帯数は、直近2009年3月時点には、 5,059万世帯になっている。全世帯数の伸び率から、直近の持家一戸建数は2,618万戸と推計できる(2,539×5,059/4906)。この世帯 数が補助金対象になる。補助金対象者のうち、アンケートで太陽光発電システムをぜひ設置したいと答えた人の割合(24/494=4.9%)をかけると、 128.3万戸となる。
    これに実現可能性バイアスを考慮する。一戸建住宅を所有していると答えた人と太陽光発電システム補助金制度を利用したことがある、と答えた人の比率は 5.5%(=25/458)である。これに直近の持家一戸建推計数2,618万戸をかけると、142.9万戸となる。しかし実際には、1997-2005 年度の累積設置戸数は25.3万戸程度で利用実績は小さい(財団法人新エネルギー財団のデータ調べ)。すなわち、17.7%(=25.3/142.9)し か実際には設置されていないことになる。
    これを修正係数とすると、アンケートベースの128.3万戸に17.7%をかけた22.7万戸が新しく太陽光発電設備を設置する戸数になる。結局、250万円/戸×22.7万戸=5,675億円が追加的な需要効果と推計できる。

    最後に、贈与税制度の拡充による住宅投資創出効果をアンケートから推計しようとしたが、質問が正確に理解されていない可能性があり、今回は推計しなかっ た。グリーン家電や乗用車のような耐久消費財については、経済条件が多少変化しても購入意思が実現される可能性は高いが、住宅のような高額な買い物につい ては別物であると判断した。この政策の効果の推計には不確実性が付きまとうためである。

    【アンケート結果の経済政策への含意】
    以上の推計結果は、速報の段階よりはスケールダウンされたが、われわれは経験上確度の高い結果であると考えている。低炭素革命関連の補正予算により、民 間最終消費支出に3兆8,489億円の追加需要が2009年度に発生すると考えられる。2008年度の民間最終消費支出は290.6兆円であるから、民間 最終消費支出を1.3%引き上げることになる。経済全体では0.7%程度の引き上げとなろう。
    もっともこのアンケートは4月時点での経済情勢にもとづく消費者の追加需要を推計していることに注意しなければならない。最近発表されている夏のボーナ スの予測を見れば、前年比20%程度の減少を避けられないようである。大型の耐久消費財(big ticket items)の購入にはボーナスが決定的に重要である。これからは所得制約が強まることがはっきりしているから、ここで示した推計には上方バイアスがか かっている可能性があることを指摘しておこう。
    最後に、低炭素革命関連の補正予算の効果で2009年度に発生する追加需要は2010年度には消滅することを忘れてはいけない。ちょうど消費税引き上げ の駆け込み需要と同じである。その結果、2009年度には民間最終消費支出は成長促進要因となるが、2010年度には0.7%程度の抑制要因に転じるので ある。仮にその部分を世界経済の回復による外需が相殺してくれれば、日本経済は大不況からうまく脱出できることになる。結局、外需頼みの回復といえよう。 景気回復はダブルディップ型になる可能性が高いことを指摘しておこう。 (稲田義久・入江啓彰)

    日本
    <4-6月期日本経済、楽観は禁物>

    5月20日に発表された1-3月期GDP1次速報値によれば、同期の実質GDPは前期比-4.0%、同年率-15.2%と前期(-14.4%)を上回る 大幅なマイナスとなった。下落率は戦後最悪となり、昨年4-6月期以来4四半期連続のマイナス成長を記録した。この結果、2008年度の成長率は -3.5%となった。実績は直近の超短期モデル予測(支出サイドモデル、主成分分析モデルの平均値:-17.4%)やマーケットコンセンサス予測(ESP フォーキャスト:-15.9%)を小幅下回る結果となった。超短期モデル予測の動態を見れば、2月の月次データが利用可能となった2月末の予測において は、すでに-14%程度の大幅な成長率予測へ下方シフトが起こっている。超短期予測は2ヵ月程度早く大幅落ち込みを予測できたことになる。
    1-3月期の成長率が戦後最大の落ち込み幅となった主要因は、輸出の急激な落ち込みと低調な民間需要(民間最終消費支出と民間企業設備)である。日本の 景気の落ち込み幅は、他の先進国、米国(年率-6.1%)やEU(約年率-10%)のそれを大きく上回っている。これは、輸出に大きく依存した日本経済成 長モデルの脆弱性を引き続き示したことになる。
    ただ、3月には生産や輸出が前月比でプラスに転じたことにより、マーッケトでは4-6月期は前期比でプラス成長になる可能性がささやかれている。
    1-3月期のGDPを更新した今週の支出サイドモデル予測によれば、4-6月期の実質GDP成長率は、内需と純輸出が引き続き縮小するため、前期比-1.9%、同年率-7.5%と予測される。前期よりマイナス幅は縮小するものの依然としてマイナス成長が続くとみている。
    4月の多くのデータが利用可能ではなく、予測モデルでは時系列モデルによる予測値を用いているため、今回のようにほとんどデータが急激な下方トレンドを 示している状況では転換点の予測は後ずれする。4月のデータが利用可能となれば、実質GDP成長率のマイナス幅が縮小することは予想できるが、プラスに転 じるかについては次回の予測を待ってみたい。プラス要因として補正予算の効果が期待できるが、新型インフルエンザ等マイナスの要因もあるからである。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国
    米景気に対して注意深いながらも楽観的な見方が広まってきた。最も良い例は5月5日のバーナンキFRB議長の議会両院経済委員会での証言である。彼は  ”昨年秋以降の急激な景気悪化のペースがかなり緩やかになってきた”とコメントをし、景気が2009年4-6月期において安定化することを示唆した。確 かに、最近の新規失業保険申請件数の増加はピークを打ち、雇用減少の緩和、製造業の平均週労働時間の上昇、NAHB(全米住宅建設業者協会)住宅市場指数 の1月以降の反転している。景気後退の象徴となっていた労働市場・住宅市場のこれ以上の悪化が止まる兆候をみて、マーケットは彼の証言を受け入れている。
    市場エコノミストの4-6月期経済成長率の予測は-0.5%から-1.5%の範囲にある。これは今週の超短期モデルの予測値と近い(前期比年率-1.1%)。
    景気判断するのにトレンドが重要である。ミシガン大学の消費者コンフィデンス指数、特に将来指数は2月の50.5から急速に上昇し始め、6月には 69.0にまでなっている。グラフが示すように、超短期モデル予測も3月6日の予測から4月24日の予測まで、4-6月期実質GDP伸び率の予測値が緩や かな上昇トレンドを示し、米景気の安定化を示していた。しかし、5月1日以降になるとこれまでの緩やかな上昇トレンドが急速に下降トレンドに転換し始め た。超短期モデルの予測が景気の転換点を示すのに少なくとも市場より1ヵ月早いことが理解できる。今後の超短期予測にもよるが、おそらく1ヵ月後には、” 第2四半期における景気安定化”という注意深い楽観的な見方が幾分悲観的な見方に変わる可能性が高い。

    [[熊坂侑三 ITエコノミー]]

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2009年4月)

    インサイト

    インサイト » コメンタリー

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    <中国の財政刺激策は関西経済にとって救世主となるか?>

    関西経済予測のアウトライン:2009-2010年度
    関西社会経済研究所(KISER)は2月22日、10-12月期GDP1次速報値を織り込んだ第77回景気予測を発表した(HP参照)。今回われわれは、日本経済予測と整合的な形で、関西経済についても予測を行った。ベースラインを要約すれば、以下の様である。
    関西の実質GRP成長率は2009年度▲3.2%、2010年度+0.7%と予測する。第77回景気予測では、日本経済の実質GDP成長率について 2009年度▲3.7%、2010年度+1.5%と予測されていることから、関西経済は、日本経済と比較して落ち込み幅は緩やかに留まるが、回復局面では スピード感に欠く、といった予測のストーリーである。
    需要項目の中で、特徴的な予測結果となっているのは企業設備投資である。2009年度▲13.6%、2010年度▲0.8%と予測している。ただし、大阪湾ベイエリア地域での環境関連投資が進めば、上ぶれする可能性があることに注意しておこう。
    関西経済にとっての中国の役割
    また、輸移出については、2009年度▲2.6%、2010年度+1.6%と予測している。関西の輸出においては、アジア、特に中国が大きな役割を担っ ている。ここで、関西における輸出構造を中国を中心に確認しておこう。下図は2008年における関西の輸出相手地域のシェアを示したものである。関西の輸 出16.5兆円のうち、アジアは約10兆円で6割を占めており、特に中国はその3分の1(3.3兆円)を占めている。中国に対する輸出を品目別にみると、 電気機器や原料別製品といった品目の割合が高い(それぞれ32.1%、19.4%)。一方、輸送用機器はあまり輸出されておらず、ウェイトが低い (1.0%)。

    中国の財政刺激策の大きさ
    最近、中国の財政刺激策にスポットライトが当っている。ただし、財政規模4兆元が一人歩きをしている感がある。この規模の財政刺激策が実現した場合、ど の程度の経済拡張効果があるか見てみよう。2008年の名目GDPが30.067兆元であるから、4兆元は13.3%に相当する規模である。仮に乗数(国 民所得の拡大額÷有効需要の増加額)を1.5とした場合、6兆元の追加的な需要となり、名目GDPを約20%引き上げるという計算になる。
    ここで注意が必要である。意外と看過されているのは、この財政支出期間が2年を目処にしており、一部は昨年末から前倒しされていることである。なかには 単年度で4兆元が支出されてその効果を計算していると読める分析もある。それにしても、4兆元が仮にすべて真水として支出された場合、1年間で名目GDP を最大約10%押し上げる効果をもつと考えてよい。
    中国の財政刺激策は関西経済にとって救世主となるか
    われわれは関西経済の予測とともに、中国経済の実質成長率がベースラインから加速した場合、関西経済に与える効果(中国経済高成長ケース:シミュレー ション1)を計算している。ベースラインでは中国の実質GDP成長率を2009年+6.2%、2010年+8.3%と想定しているが、これが両年にわたっ て8.5%にシフトアップするケースをシミュレーションしている。
    シミュレーション結果によれば、中国経済が政府の目標に近い成長率(ここでは8.5%)を実現できた場合、関西経済の輸出を2009年度0.3%、 2010年度0.42%拡大するにとどまる。金額(2000年実質価格ベース)にして、それぞれ、336億円、479億円である。実質GRPは、2009 年度0.03%、2010年度0.05%の増加にとどまる。金額にしてそれぞれ283億円、411億円である。意外と効果は小さいのである。
    KISERの関西経済モデルでは実質輸出関数が推計されている。所得弾力性は0.864、価格弾力性は-0.651となっている。所得変数としては、中 国、米国、EUの実質GDPを2005年の3ヵ国の輸出シェアで加重平均したものを用いている。中国経済の成長率2.3%ポイントの上昇(6.2%から 8.5%へ)は、関西の実質輸出を0.3%押し上げることになる。
    中国経済に加えて、米国とEUの成長率がベースラインより2%ポイント上昇した場合、関西の実質輸出はベースラインから1.8%拡大することになる(シ ミュレーション2)。これらのシミュレーションが示唆するものは、関西経済にとって確かに中国経済の回復はそれなりの効果を持つが、決して大きくない。大 事なのは世界経済が一致して拡張的な財政・金融政策をとらない限り、大不況から脱出できないのである。16日に中国の1-3月期経済成長率が発表された が、前年同期比+6.1%に減速した。4半期ベースでは統計がさかのぼれる1992年以来の低い伸びにとどまった。この現実からも、中国経済の財政刺激策 の効果に過度の期待をかけないほうが無難である。(稲田義久・入江啓彰)

    日本
    <先行指標に一部明るさがみられるが1-3月期は前期を上回る2桁のマイナス>

    4月20日の予測では、3月の一部と2月のほぼすべての月次データが更新された。3月のデータで特徴的なのは、一部の先行指標に改善が見られたことであ る。3月の消費者態度指数は3ヵ月連続の前月比プラスを記録し、同月の景気ウォッチャー調査の現状判断DIも3ヵ月連続で改善した。このように企業や消費 者の心理は2008年12月に底を打ち改善傾向を示しているが、水準は昨年秋口の値に等しく依然として低い。すなわち、前年同月では引き続き低下している が、悪化幅が縮小し始めたのであり、秋口以降の急速な落ち込みが減速しているのである。このように先行きに明るさが見られるものの、現状は非常に厳しいと いえる。
    支出サイドモデル予測によれば、1-3月期の実質GDP成長率は、内需が大幅縮小し純輸出も引き続き縮小するため、前期比-4.7%、同年率 -17.5%と予測される。10-12月期を上回るマイナス成長が予想され、この結果、2008年度の実質GDP成長率は-3.2%となろう。ちなみに4 月14日に発表された4月のESPフォーキャスト調査によれば、1-3月期実質GDP成長率予測のコンセンサスは前期比年率-12.76%となっている。 われわれの超短期予測はコンセンサスから5%ポイント程度低いといえよう。
    1-3月期の国内需要を見れば、実質民間最終消費支出は前期比-0.8%となり、2期連続のマイナス。実質民間住宅は同-8.6%と3期ぶりのマイナス となる。実質民間企業設備は同-12.2%と5期連続のマイナスとなる。実質民間企業在庫品増加は2兆8,400億円となる。実質政府最終消費支出は同 0.4%増加し、実質公的固定資本形成は同0.6%増加する。国内需要の実質GDP成長率(前期比-4.7%)に対する寄与度は-2.8%ポイントとな る。
    財貨・サービスの実質輸出は同22.1%減少し、実質輸入は同11.4%減少にとどまる。このため、純輸出の実質GDP成長率に対する貢献度は-1.9%ポイントとなる。
    4-6月期の実質GDP成長率については、内需は停滞し、純輸出も引き続き縮小するため、前期比-1.5%、同年率-5.7%と予測している。
    一方、主成分分析モデルは、1-3月期の実質GDP成長率を前期比年率-16.0%と予測している。また4-6月期を同-9.5%とみている。
    この結果、支出サイド・主成分分析モデルの実質GDP平均成長率(前期比年率)は、1-3月期が-16.7%、4-6月期が-7.6%となる。両モデルの平均で見れば、2009年後半は引き続きマイナス成長となり、当面景気回復の糸口が見つからないようである。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国

    4月29日に2009年1-3月期のGDP速報値が発表される。その2週間前における同期の実質GDP伸び率(前期比年率)に対する市場のコンセンサス は-4%?-5%である。一方、超短期モデルは実質GDP伸び率を、支出サイドから-0.2%、所得サイドから-1.7%、そしてその平均値(最もありえ る値として)を-0.9%と予測している。
    この超短期予測が正しいとすれば、2008年10-12月期(実質GDP成長率:-6.3%)を米国経済の景気の底と見ることができる。実際に、バーナ ンキFRB議長のように、景気をそのようにみるエコノミストもいる。しかし、世界的なリセッションによる大幅な輸出入の減少が2009年1-3月期の数字 上の景気判断を難しくしている。
    名目輸出入に関しては2009年の1月、2月の実績値が既に発表されている。従って、この2ヵ月の平均値を10-12月期の月平均値と比べることができ る。名目財輸出、同サービス輸出、同財輸入、同サービス輸入の減少率は、前期比年率でそれぞれ-45%、-16%、-57%、-17%となる。超短期予測 は時系列モデル(ARIMA)で3月以降を予測している。財とサービスを合わせた名目輸出、同輸入の下落率はそれぞれ-37%、-51%となる。すなわ ち、輸出入が共に3月に減少すると予測している。一方、輸出入価格は季節調整前だが、3月までの実績値がそろっており、前期比年率でそれぞれ-9%、 -24%である。
    その結果、超短期予測は1-3月期の実質輸出、同輸入の下落率を前期比年率でそれぞれ-32%、-51%と予測している。すなわち、世界的なリセッショ ンの結果このような実質輸出入の大幅な減少が生じており、米国では更に実質輸入の落ち込みが実質輸出の落ち込みを大きく超えることから、数値上実質GDP の伸び率が高くなる。実質輸出入がこのようにそれぞれ大幅に減少するとき、純輸出の予測には多くの不確実性が伴う。
    そのため、正しい景気判断をするにはGDPから純輸出を除いた実質国内需要で景気を判断するのが良い。超短期予測は1-3月期の実質国内需要の伸び率を -5.7%と予測しており、これは2008年10-12月期-5.9%とほとんど変化はない。すなわち、1-3月期の実質GDPの伸び率が市場のコンセン サスよりも高くなっても、同期の経済状況は前期と同じように悪かったと判断すべきであり、米国経済の底は2008年10-12月期から更に深くなっている と見るべきである。超短期予測が1-3月期の実質GDPが市場のコンセンサスに近くなるのは、季節調整後の輸入価格と3月の輸入を超短期予測が共に過小評 価している場合である。

    [[熊坂侑三 ITエコノミー]]